小商いとイーサリアム

イーサリアムとブロックチェーン
ビットコインが100万円を超えた

 「ビットコインが100万円を超えた」というニュースをどこかで聞いたことがあるでしょう。これ、どういう意味なのか。ビットコインは仮想通貨と呼ばれ、企業が運営する取引所で、円やドルと交換してくれます。100万円とは、ビットコインと円の交換レートのことです。今年の春、1ビットコインは10万円くらいでした。それが、100万円。つまり、半年で10倍。まさに急騰しています。

ビットコインは、通貨といっても、硬貨や紙幣があるわけではありません。スマホのアプリでドルや円との交換・売買を行います。そんなデジタルな存在が、リアルなお金の投資先として認められているのです。

 ではビットコインでモノは買えるのでしょうか。たとえば、ビックカメラでは、ビットコインでモノを購入できます。スマホのアプリをレジの機器にかざして支払いを済ませます。その値段は、交換レートに基づいています。1000円のモノは、その日の1000円分のビットコインが差し引かれるわけです。

なぜ仮想通貨を買うのか

 なぜそんな仮想通貨の価値が上がるのか?よく言われているのは、投資先に困っている中国の大金持ちたちが、ビットコインを買っているという話。なんにせよ、市場取引される商品は、買い手が多ければ値段が上がります。中国の人が多いかはわかりませんが、値上がりが続く=買い手がたくさんいるのは確かでしょう。仮想通貨の価値を保たなければ困る人たちがいるのです。

 仮想通貨の価値を保ちたいと思う人はどんな人なのでしょうか。仮想通貨を取りまく人たちは、マイナー、取引所、利用者の3種類に分けられます。取引所は、交換手数料が収入源ですから、仮想通貨が急騰しても暴落しても関係ありません。

 では、マイナーは?仮想通貨は、ブロックチェーンというデジタルな台帳に、誰がいつ、いくらビットコインを使ったかの全記録が保存されています。マイナーとは、その記録保存をする人たちのこと。マイナーは、記録保存の作業の報酬として、ビットコインをいくらか受け取ります。つまり、彼らはビットコインの価値が下がると困る人たちです。

 このマイナーに、中国の人たちが多く関わっていると言われています。労働の対価としてもらったビットコインの価値を下げないために、取引所で大量の買い手としてビットコインを買い支える。そんな想像が働きます。

 もう少し仮想通貨について調べると、面白いことがわかります。円やドルは、日本銀行など中央銀行が発行しています。紙幣をどれくらい印刷するかは、中央銀行が決めるわけです。では、ビットコインはどうでしょう。マイナーは、ビットコインの発行者ではありません。あくまでも、ビットコインの利用状況を記録する人たち。つまり、ビットコインは、仮想「通貨」ですが、発行する主体がないのです。

 また、マイナーが記録したビットコインの利用状況も、ネットワーク上に共有されます。どこかの企業が管理するわけではありません。

イーサリアムとスマートコントラクト

 このブロックチェーンに、仮想通貨だけでなく、デジタル上で起こるあらゆる情報を記録したら。。。そんな可能性に気づいた人たちがいます。

 その一つがイーサリアム(Etherium)。彼らは自分たちのことを、「スマートコントラクトを運用する分散型(非中央集権型)プラットフォーム」と呼んでいます。また、新しい言葉「スマートコントラクト」が出て来ました(笑)。

 スマートコントラクトとはなんでしょう。先の文章の後に、こう説明されています。「予めプログラミングされた通りに動くアプリケーション」。イーサリアム創始者のVitalik Buterin氏は、色々なインタビューで「規定された金額のコインを入れるとジュースが出てくる。それに満たない限り、ジュースは出てこない」という自販機の話で説明しています。

 アプリケーションというと、ゲームとかスマホのサービスがまず思い浮かびますが、ここでは「この条件では、こうなる(支払う)」などと契約を結んだビジネス取引のことと考えていいでしょう。

 つまり、イーサリアムは、ビジネス取引をブロックチェーンで作ったプラットフォームで完結させてしまおうという試みでしょうか。

IoT × ブロックチェーン × スマートデバイス

 スマートコントラクトが成立する背景には、あらゆる仕事がインターネット上で行われている点が挙げられます。IoT(Internet of Things)と呼ばれていますが、いまや発注や支払いなどオンラインで完結する仕事が増えています。

 仕事がネットワーク化すればするほど、スマートコントラクトの応用範囲は広がっていきます。在庫管理、発注システム、決済などなど。消費者にとっても、機器がスマート化するとスマートコントラクト化されることも増えます。テレビを15分見たら、お金(仮想通貨)が貰えるとか。テレビがスマート化し、ネットワークと繋がったので、そんなことが可能になるのです。

 Vitalik Buterin氏は「イーサリアムは、アンドロイドOSのようなものだ」と言っています。アンドロイドOSで、スマホやアプリが動いてるように、イーサリアムは新たなネットワーク社会の基盤になろうとしているのでしょう。

小商いな生産者が増え、非中央集権型な仕組みが必要とされる

 モノとモノがインターネットで繋がると、彼らがやり取りする情報量も膨大になります。また、わたしたち人間も、メディアから家具、コンテンツに至るまで、消費するだけでなく生産者としても、活動している人が増えています。

 これらの一つ一つの取引で生まれる情報が増える->処理単価を下げないと追いつかない->そこで、イーサリアムのような非中央集権型のシステムが必要。そんな未来が推測されます。

 記録の管理を誰かに代行してもらう中央集権型の仕組みでは、その代行者に手間賃を払うことになります。代行者の監視も必要でしょう。大資本による企業など、どこかに生産をやってもらう中央集権型の仕組みでは、維持のための色々なコストがかかっています。

 ところが、ブロックチェーンのように、コミュニティの記録をみんなで共有すれば、代行してもらう人は不要になります。その分、管理単価は下がる。全てを分散させる分散型管理=非中央集権型が理に適っているのです。

 さらに、ブロックチェーンを利用すれば、仮想通貨を発行できます。Tシャツの在庫を常に3枚抱えているとして、その1枚が売れたら自動でメーカーに発注、仮想通貨で即日決済といった一連の流れをプログラミングできるのです。その結果、カスタマーセンターも、システムもとても安価に運用できるでしょう。

 スマートコントラクトは、さまざまな応用が考えられますが、ブロックチェーンを利用した小商い向けのECサイトが近い未来に登場し大きく成長するでしょう。

イーサリアムの革新性

 メディアの研究をしていたとき、インターネットはまず既存ビジネスを安価で利便性を増したサービスで凌駕し、その次にビジネスそのものを質的に変えてしまうことに気づきました。ネットフリックスは映画やドラマを安価に流通させるプラットフォームですが、プロでなく一般の人の映像を流すスナップチャットというスマホのアプリは、コンテンツでなくコミュニケーションのプラットフォームです。テクノロジーの発展で、生産者が分散し大量に生まれるため、いままでのビジネス構造では、新たな需要に応えることはできません。

 金融市場も、仮想通貨の登場で、同じ変化を辿るでしょう。クレジットカードやペイパルは、取引の手数料を安価にしました。しかし、それでもカード会社といった第3者が間にいるために、手数料や決済のスピードはまだ少しかかります。ビットコインは、グローバル取引の決済手数料やスピードに早さをもたらしただけでなく、第3者が信用を保証するという仕組みを不要にした点で、既存の金融の仕組みと決定的に違っています。

 さらに、イーサリアムは、取引と決済を自動結合してしまいました。これも、とても新しい。インターネットやスマホのアプリ開発者は、どのようにお客にお金を請求するか苦労してきました。App storeやGoogle storeがその解決策の一つだったわけですが、イーサリアムを使えば、こうしたプラットフォームは不要になってしまいます。イーサリアムの革命性はここにあると思います。

ブロックチェーン、政治・行政への影響

 インターネットのイノベーションが、いまだに届いてない領域といえば、金融と政治・行政でしょう。両者は、まさに中央集権型のシステムの権化です。選挙はいまだに紙とエンピツ。ブロックチェーンやIoTとは無縁です。しかし、世の中が分散型に変わっていけば、その社会を運営する仕組みも変わらざるを得ません。

 ブロックチェーンを利用し、投票を実施したり、税金の使い方をプログラミングしたり、前回書いたベーシックインカムを配ったり、そんな世の中になっていくのではないでしょうか。ネットフリックスは、テレビ市場の外側に大きな市場を作りました。ブロックチェーンや仮想通貨も、既存の社会と一定の交換レートを保ちながら、新たな社会の基盤になるのではないでしょうか。

(参考)

  1. アイスランドの「マイナー」工場の様子
  2. TechCrunch Ethereum’s Blockchain Trust Disrupted: Bitcoin and the Blockchain S1:E5,2016.10.14
  3. ブロックチェーン技術を活用したシステムの評価軸整備等に関わる調査, 三菱総合研究所,2017年3月17日