本物のキャスターを目指そう

N.Hashitani

N.Hashitani

橋谷 能理子

 アナウンサー、キャスターというと、どんなイメージをお持ちでしょうか?きれいな衣装を着て、メイクしてもらって、用意された原稿を読んだり司会したりする、かっこいい仕事・・・。
 これが、私が日頃周囲のそれほど親しくない人から言われるイメージです。「親しくない」と言ったのは、本当に親しい友人たちは、私の日頃の奮闘ぶりを知っているからです。

 毎週出演している「サンデーモーニング」でも、自分の出番はほんの20分ぐらいですが、金曜から会議に参加し、枕ぐらいの厚さの資料を読み込み、ネットで情報を探し、ノートに整理します。

 

一回の放送のために読む資料

一回の放送のために読む資料

 

 それでもわからない時には専門家に取材させてもらうこともあります。でもそうして集めたデータや頭の中で整理した考えが番組で生かされるのは、多くて3~5%ぐらい。
 ほとんどは日の目を見ることはありません。

 

キャスターはブルーカラーだ

 そしてもう一つ、キャスターはホワイトカラーではなく、間違いなくブルーカラーです。
「地震だ!」「噴火だ!」と言われれば、着の身着のままで現場に駆けつけ、不眠不休で中継しなければなりません。

 阪神淡路大震災の時には、飲まず食わずで取材していた私に、後発隊で来た後輩がくれた一本のミネラルウォーターが死ぬほどうれしかったし、トイレがなくて「ついに道端しかないか」と段ボールで囲いを作っていた時に「トイレ貸してあげようか?」と声をかけてくれた近所のおばあちゃんが神様に見えました。
 台風が接近していると、一番風雨が強そうなところに中継に行くのは当たり前。強風で飛ばされないように、ADさんがレポートをする私の両足をつかんでくれていたこともあります。

 最近ですと、去年、ドイツのネオナチの取材に行った際には、ネオナチのデモ隊を30分ほど全速で走り回って探しました。やっと見つけて、ナイフや銃を持っているデモ参加者の近くでレポートした時には、何度も身の危険を感じたものです。

 

極右勢力のデモを取材

極右勢力のデモを取材

 

わくわく感こそやりがいの源泉

 ・・・と書いていると、「じゃあ、どうしてそんな大変な仕事を?」と思われるかもしれませんが、私はこの仕事が好きです。
 それはやはり、ありきたりな言い方ですが、やりがいがあるから。
 世の中の様々な人の営み・・・それは悲しみだったり怒りだったり絶望感だったり、逆に喜び、優しさ、温かさだったり・・・そんな世界中の出来事をつぶさにスピーディに伝えられる存在として、ネット全盛の今でも、やっぱりテレビの力は絶大です。
 私の伝えたニュースが人の心を動かすかもしれない、その人たちが何かのアクションを起こすかもしれない。責任は重大だけど、こんなにワクワクする仕事はなかなかありません。そしてそのワクワクはやはり、自分がそのニュースを理解し、「スタッフの一員」としての意識で、構想や打ち合わせ段階から番組に関わっているから生まれてきているのだと思います。

 

原稿を自分で考えることも、、、

原稿を自分で考えることも、、、

 

何か勘違いしていないか、若い人

 ところが、最近、特に若い女性キャスターの中にはそうではない人も増えてきたようです。
 悲しいことだけれど。彼女たちの中には、私が冒頭に書いたような「きれいな衣装を着て、用意された原稿を読む」ここで止まっている人が多いようなのです。様々な番組を見ていると、漢字の読み間違いや日本語の間違いは、もう日常茶飯事。原稿が間違っていても、もしかしたら「だって書いたのは私じゃないから」という意識なのかもしれません。

 また、番組で、どう説明すればよりわかりやすいかということよりも、画面での映りを気にしたり(もちろん、視聴者の方に好感を持ってもらうというのも大事な仕事ですが)、自分がそのニュースを理解せずに平然と伝えているようだったり、間違ったことを放送しても、さほど反省せずにまた同じようなミスを犯したりということを頻繁に目にします。
 そして、画面を見ているこちらが「え?」と疑問を持つような間違いでも、全く気付かずにっこりとほほ笑んでいたりします。また、本来主役であるはずのゲストや出演者を輝かせることを忘れて、自分が主役のように振る舞う、そういう人もよく見かけます。そういった場面を見るたびに私は「あ~もったいない!この仕事の面白さはそこじゃないのに」と思ってしまいます。

 

「後ろにいる人たち」との共同作業

 キャスターの役割を私は常々、お料理をお客様に運ぶウエイトレスや仲居さんのようなものだと思っています。
 実際にお客様つまり視聴者に接するのは私たちだけかもしれない。
だけど私の後ろには、心を込めて料理を作るシェフや板前さんがいて、その後ろにはその食材を作ったり捕ったりする農家の方や漁師さんもいる。
そしてさらに、その食材を運んでくれるトラックの運転手さんだっているかもしれない。
 だからお客様の目の前にきちんと運んで、時にはその料理の説明も適切にできる、それが私の仕事・・・テレビでいうと、ディレクター、AD、カメラマン、音声、照明、大道具、編集マンなどすべての人たちの仕事を総結集させて出来上がった番組を、視聴者の方に直接お伝えするのがキャスターの役割だと思うのです。

 

放送の裏では多くのスタッフの力が、、、、

放送の裏では多くのスタッフの力が、、、、

 

 キャスターを目指す若者は多くいます。確かに面白い仕事であることは、自信を持って保証します。
しかし、「自分は何のためにキャスターになりたいんだろう?」「自分はどんな役割を果たせばいいんだろう?」「何をどう伝えるべきなんだろう?」そんな意識を持つか持たないかで、仕事に対する面白さ、やりがいが大きく変わり、ひいては本物のキャスターになれるか、単なるお飾りで終わるかが決まると思います。
 メディアに関して厳しい意見も飛び交う昨今、番組に対して責任感を持ち、より積極的に関わっていく「本物のキャスター」を育てたい、それが私の今の役割なのだと肝に銘じています。