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「みんなが抗体を持つ」社会‐ワクチン接種進む英国

在英ジャーナリスト  小林 恭子

 日本では、2月17日、新型コロナワクチンの医療従事者への先行接種が開始され、4月12日からは65歳以上の高齢者向け接種が始まった。
 政府の資料によると、4月27日時点の接種回数は医療従事者等が3,109,740回、高齢者等が115,724回に上る。現在のところ、国内で薬事承認を受けたのは米製薬大手ファイザー社と独ビオンテック社開発のワクチンだ。
 英国では昨年12月上旬からファイザー製ワクチンの接種開始となり、ほかに英アストラゼネカ社とオクスフォード大学開発のワクチン、米モデルナ社のワクチンが使われている。4月末時点で約3300万人が1回目の接種を受けた(上記すべてのワクチンは2回が1セットとなっており、2回目を終えた人はこの中で約1300万人)。
 英国の人口は約6700万人で、総人口の半分に相当する人が1回目の接種を受けている。接種対象者は医療従事者や特定の疾病を持つ人などを先頭に、それ以外の人は年齢層で区切った。高齢であるほど早期に打てるようにした。
 

  接種は45歳以上、封鎖も解除へ

 現在、ほとんどの地域で45歳以上(一部は35歳以上)が接種対象となっている。
 接種を受けるまでの過程は、まず国営の「国民保健サービス(NHS)」からの連絡を待ち、自分の番が来たという通知を受けると、特設のウェブサイト上で都合の良い日と最寄りの接種場所を選んで予約する。
 筆者も3月に1回目(アストラゼネカ製)を、70代の家人は2回目(1月、4月、いずれもファイザー製)を受けている。
 4月12日は、筆者が住むイングランド地方で「ロックダウン(都市封鎖)」が徐々に解除された日となった。
 この日まで、キーワードは「家に留まるように(ステイ・アット・ホーム)」。不要不急以外の小売店は閉鎖され、同居していない人と集うことは禁止されていた。
 しかし、ワクチン接種の拡大とともに1日当たりの感染者数、入院者数、死者数などが大きく減少し、行動制限を緩和することができるようになった。
 12日、衣料品を販売する小売店、理髪店の前には人の長い列ができた。レストランやパブも、「戸外での飲食」、「1つのグループは6人以内」、「ソーシャル・ディスタンスに配慮したテーブル配置」を提供できれば、営業を再開できる。
 近くのパブは駐車場に小型テントを設け、中にテーブルを据え付けた。「テント」と言っても、前面部は覆いがなく、風通しが良い。
 友人たちとテント席に入ってみた。注文を取りに来たのはマスクをしたウェイトレス。客はパブの中には入れず、注文と支払いはテーブル上で行う。ビールでひとしきり乾杯した後、友人の一人が言う。「考えてみれば、6人全員がワクチン接種済みだ」。
 隣人たちと中庭に椅子と飲み物を持って集い、久しぶりに直接顔を合わせて談笑をする機会もあった。既に感染済みだが回復した人、ワクチン接種済みの人ばかりで、全員が抗体を持っていた。「安心して、飲めるね」とスザンナさん。
 いつしか、周囲にいる人々が何らかの形で抗体を持つようになってきた。
 英政府は、7月末までに18歳以上の成人全員のワクチン接種を実現させる予定だ。

  厳しい規制で感染者も死者も激減

 ワクチン接種を急ピッチに進める英国だが、コロナによる損害は日本よりはるかに深刻だ。日本の場合、死者数は4月末時点で約1万人だが、英国の死者数は約12万7000人。欧州内で最多である。日本の人口は英国の2倍なので、単純計算すれば約25万人の死者に相当する。
 「最悪の国」だった英国だが、日本の緊急事態宣言よりは厳しいロックダウン規制とワクチン計画をまい進させたことで、コロナ関連の数字が激減した。
 英国のコロナの感染第1派は昨年4月頃がヤマ場だった。夏にはいったん収束したかに見えたが、秋口から非常に感染力が高い変異種が拡大。秋から冬が第2派の時期となった。第2派のピーク時、1日当たりの新規感染者数は数万人、死者は1000人前後にまで拡大した。政府閣僚による連日の記者会見でこうした数字が発表される度に、むなしい思いがしたものである。
 直近の政府データによると、4月27日時点で1日当たりの新規感染者(検査で陽性となった人)は2,685人、死者は17人(検査で陽性となってから28日以内に亡くなった人)であった。いずれも、ほぼ毎日のように下落傾向が続く。ピーク時との比較では、感染者が数万人から約2000人に、死者が1000人前後から二桁台に落ちている。


英国の新型コロナによる死者の推移。ピークが昨年春と今年冬であることが分かる
(政府のウェブサイトより)

  ワクチンは1回でも感染減る

 ワクチンは感染者・死者数減少に効力を発揮したのだろうか?
 これまでに複数の調査結果が出ているが、4月23日に発表された、国家統計局とオックスフォード大学との共同調査によると、ファイザー及びアストラゼネカ製のワクチンを1回接種した人の感染率は大幅に減少したという。
 調査は、英国で接種を受けた37万人を対象とした。いずれかのワクチンの1回目を受けた人はコロナの感染率が65%減少。ファイザーのワクチンを2回接種した人は90%の減少。
 1回でも接種を受けた人は強い抗体反応を見せ、その効果は10週間続いたという。
 しかし、オックスフォード大学の研究者コーエン・パウエル氏はワクチンを受けても感染する可能性があるため、ソーシャル・ディスタンスの維持やマスク着用は予防のためには欠かせないという(BBCニュース、4月23日)。
 最後に、ワクチンの安全性について記しておきたい。
 通常、ワクチンの開発には長い年月がかかるところ、今回のコロナワクチンは1年もかからないうちに市場に出た。新型コロナについても、そのワクチンについても、科学者・医療関係者の中でも未解明な部分が少なくないので、筆者がここでコロナワクチンについて断定的なことを言うことは避けておきたい。


ワクチン接種でもらえるカード(右)とパンフレット。
カードの裏には名前、ワクチンの開発メーカー、日時などの情報が記されている
(筆者撮影)

  気にかかる安全性

 ただ、気になるのは日本ではまだ使用されていない、アストラゼネカのワクチンの安全性だ。このワクチン接種後、ごくまれに血栓症が発生した。2つの事象の関連を懸念した欧州の複数の国が一時使用を停止し、対象者の年齢層を区切る国が出た。世界保健機関(WHO)、欧州医薬品庁(EMA)、英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)も「安全」「効果がある」という判断を出しているが、デンマークは全面中止を決断した。
 英国では、2000万回分のアストラゼネカのワクチン接種者の中で79人に血栓が発生し、うち19人が死亡している(MHRAの調べ)。血栓の発生は100万人に4人の割合で、100万人に一人が死亡した計算になる。
 19人中で3人は30歳未満であったため、4月上旬、英国でも30歳未満に対してはアストラゼネカ以外のワクチンを使用することを決めた。MHRAは「副作用は非常にまれ」だが、ワクチンとの因果関係を特定するために今後さらに調査が必要、と説明している。
 米国では、1回の接種だけの米ジョンソン&ジョンソン製ワクチンでも、接種者の中に血栓を発症した女性が出た。米医薬品規制当局は同社のワクチン使用を一時的に停止している。
 6月、筆者は2回目のワクチンを打つが、これはアストラゼネカになる予定だ。WHOやほかの医薬品規制当局が「問題ない」としていること、英国に住む2-3000万人が既にアストラゼネカ製を接種していることなどから、筆者はアストラゼネカ製の接種にためらいを感じていない。
 しかし、「100万人に1人の割合」と言われても、その「一人」に自分が該当してしまったら…と不安を覚える人もいるだろう。心配な場合は該当医療機関・サービスに相談し、納得の上、決めたいものだ。

(参考)

▽ワクチンの効果についての調査
▽ワクチンの効果を伝える、BBCニュース(英語)の報道(4月23日付)
▽イギリス、30歳未満にはアストラゼネカ製ワクチンを制限へ 血栓の報告受け(BBC日本語ニュース、4月8日付)

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