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上司の助言で、夏目漱石全集を読破 7/10

  松尾 英里子 / 白鳥 美子

 大学院を出た後は、財団法人に勤務することになった。ドクターであるという自負、英語がかなりできるという自信、さらに「若気の至り」が加わって、北野さんの人生の中で最も“とんがっていた”時代だ。
 「北野君は英語ができるからいいね」と言われて、「部長も私も日本生まれの日本の大学卒ですよ。私は努力して英語を覚えたんです」なんて言い放ったこともある。
 上司の一人に、経産省から天下りのキャリアがいた。彼から、ある日、こう言われた。
 「お前は専門バカだ。将来、それなりのポジションを目指すなら、専門だけじゃダメだ。もっと幅広く教養をつけろ」
 そのときに薦められたのが、「誰か一人の作家でいいから、全作品を読め」ということだった。北野さんが選んだのは、夏目漱石。小説はもちろんのこと、随筆も日記も、本当にすべてを読破した。
 「何の役に立ったのかは分からないけれど、でも、あの頃は、そういうことを言ってくれるユニークな上司がいましたね」
 もう一つ、忘れられない言葉がある。博士の学位を受ける際、担当教授はこう言ったという。
 「君に博士の学位を出すけれど、君の5年間の研究が博士に相当するから出すんじゃない。5年間でこれだけの論文を書いたんだから、将来は博士に相当するような仕事をするだろうという期待で出すんだ。だから、勘違いしないように」
 胸に刻んだこの言葉を、明治大学の教授時代には、北野さんも学生に対して何度も繰り返したという。




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