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早稲田大学に入学、中村清監督との出会い 4/9

  松尾 英里子 / 白鳥 美子

アメリカから帰国し、無事、早稲田大学に合格。「瀬古の海」とからかって呼ばれるほど体重が増えてまんまるになっていた瀬古さんだったが、周りからの期待は変わらず大きかった。
「早稲田の競走部(陸上部)と瀬古を強くするために」と監督に招かれたのは、競走部OBの中村清(なかむら・きよし)氏。「風変りな人だが、教えるのはすごく上手い」という評判だった。
入学式前にあった合宿で、初めて顔を合わせた。15人くらいいた部員を前に、中村監督は頭を下げた。「こんなに弱い早稲田にしたのは、お前たちじゃない。俺たちOBが悪いんだ」そう話すと、いきなり平手で自分の頬を、音を立てて何度も叩いた。
「これで、許してくれ。これくらいの熱心さで、君たちを教えるから」
驚く瀬古さんを、中村監督は砂浜に連れ出した。海岸の砂を手に掬い、「これを食べたら世界一になれるなら、お前は食べるか」と聞くと同時に、「私なら食べる」と目の前で食べ始めた。
当時、太り過ぎで足が痛くて走れなかった瀬古さんは、正直なところ、「もう自分はダメだ」と思っていたという。だが、中村監督の素っ頓狂な“熱さ”に触れたことで覚悟が決った。



「どうせいったんつぶれたんだから、この人を信じてついていってみよう」
この日のことを、瀬古さんは、今もはっきりと覚えている。
「3月25日でした」
一気にやる気が出て、3か月後、10キロの減量に成功。5000メートルの自己記録も打ち立てて、半年後にはインカレ(インターカレッジ/日本学生陸上競技対校選手権大会)で優勝した。
「人間って、やる気になったらなんでもできるよ」

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