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  • 小此木 潔 上智大学文学部新聞学科教授

    75年朝日新聞社に入り、ニューヨーク特派員、論説委員、編集委員など経て2014年4月から現職。政策ジャーナリズム研究。著書に『消費税をどうするか』(2009年、岩波新書)など、監訳書にベン・バーナンキ著『危機と決断』(2015年、KADOKAWA)。

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コロナとの派手なダンスは踊れない

小此木 潔

2021.01.01

 急がば回れ、と言いたくなるような世界各国の現状である。新型コロナウイルス感染症で落ち込んだ経済活動を回復させようとして、感染拡大や医療崩壊の危機に瀕する国々が目立ってきている。
 こうした事態を読み解くには、山中伸弥・京大教授のブログ「新型コロナウイルス情報発信」が役に立つ。すでに5月5日の記事に重要なヒントが書かれている。

  「ハンマーとダンス」の論理

 教授は「3⽉末にTomas Pueyo⽒により提唱」された「The Hammer and the Dance」という概念を紹介している。トーマス・プエヨ氏は米国の起業家・ジャーナリストで、新型コロナウイルスの急激な感染増加が医療崩壊をもたらすのを食い止めるには、ロックダウン(都市封鎖)のような強⼒な対策が必要だとし、これをハンマーにたとえた。感染を抑え込んでいるうちに、徹底的な検査と隔離や医療体制の整備、治療薬やワクチンの開発などを進める。こうしてウイルスとの共存が可能となる時期を「ダンス」と呼んでいる。
 プエヨ氏が指標として重視している「実効再⽣産数」(R)について考えれば、日本や欧米などがなぜダンスに失敗しているかが見えてくる。⼀⼈の感染者が何⼈に感染させるかという数値であるRは、対策を⾏わないと2・5程度と考えられるので、ハンマーの段階でRを0・5程度まで下げて、感染者を減らすことが必要だ。
 「2・5を0・5に減らすためには、⼈と⼈の接触を0・5/2・5=0・2、すなわち80%以上減らす必要があります」と山中教授は解説している。この「接触の8割削減」は春の緊急事態宣言下で、政府が西浦博・京大教授の提案に沿って国民に呼びかけ、感染抑制に取り組んだ政策とも一致する。

  経済再開には人との接触60%カット

 ⼀⽅、ダンスの段階ではRを1未満に抑え、経済活動を再開する必要があるが、それには「1/2・5=0・4、すなわち60%以上、⼈と⼈の接触を減らす必要があります」「緊急事態宣⾔が解除されても、決して元通りにはならない、正常の60%以上、⼈と⼈との接触を減らす努⼒は⻑期間(おそらく1年以上)必要であることを、The Hammer and the Dance理論は訴えています」と教授は書いている。
 ⻄村康稔経済再⽣相は、5月4日の記者会⾒で「大きなハンマーでドーンとやった後も、ゼロにすることは難しくて、小さなダンスのようなことが起こってくる」と述べていた。安倍晋三政権も菅義偉政権も、緊急事態宣言というハンマー策のあとはコロナウイルスとの穏やかなダンスの時期が長く続くと思っていたのではないか。それが派手なダンスになってしまうほど、Go To トラベルやイートなどの政策で人の動きを活発化させ、接触拡大がコロナの拡散・感染増加を生んでしまったということなのだろう。

  医療機関が悲鳴、いつハンマー

 ダンスの失敗は、危機をさらに深くした。日本医師会など医療関係9団体は12月21日に記者会見し「医療緊急事態」を共同で宣言した。中川俊男・日本医師会長は「医療は風前の灯」と述べて医療が崩壊の危機に瀕していることを訴えた。日本病院会の相沢孝夫会長は「個々人の努力に頼るだけではもう感染拡大を防止することはできません。国が先頭に立って、移動制限や行動制限を政策として掲げていかなければダメではないかと私は思っております」と、接触削減策を政府に求めた。
 だが、政府の反応は鈍いどころか医療関係者の悲鳴を無視するようなものだった。同日会見した西村経済再生相は緊急事態宣言について「何としても回避すべく取組みを強化していきたい」と力を込めた。一緒に会見した政府の新型コロナウイルス感染対策分科会の尾身茂会長は「緊急事態宣言を出すような状況には今のところない」と述べた。菅首相も同夜のTBSニュース番組で、分科会の意見を引き合いに出し、緊急事態宣言には否定的な意向を示した。
 春に緊急事態宣言で「接触の8割削減」に踏み切った当時よりも患者が急増し医療崩壊が迫っているというのに、どういう事態になれば緊急事態宣言や接触削減というハンマー策に出るのか。政権は基準すら示せない。まるで思考停止したようなダンスをいつまで踊り続けたいのだろうか。

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