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  • 小林 恭子 在英ジャーナリスト

    成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「GALAC」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。

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アフガニスタンの悲劇 ― 英国の報告書から読み解く

小林 恭子

2021.09.01

  「とにかく、国を離れたい」。

 8月、アフガニスタンの首都カブールにある国際空港や隣国パキスタンとの国境には、国外脱出を望むアフガン市民が殺到し、その様子が連日、報道されるようになった。

 欧州社会では黒人市民は総人口の中では少数派で、その由来の元をたどると、奴隷貿易や植民地支配に行き着くからだ。

 脱出ラッシュの引き金となったのは、同月31日を期限とする駐留米軍の完全撤退だ。

 撤退は、2020年2月、トランプ前政権とアフガニスタンの反政府勢力タリバンとの合意(「ドーハ合意」)に基づく。民主的に選ばれたアフガン政府の頭越しの合意である。

 バイデン米政権もドーハ合意を踏襲し、今年5月以降、米軍の撤退が始まった。この間、タリバンは次々と主要都市を制圧し、8月15日には首都カブールに迫った。ガニ大統領は国外脱出し、アフガン政府は崩壊した。

 イスラム原理主義を掲げるタリバンは1996年からアフガニスタンを支配下に置いていたが、2001年9月11日に発生した米同時多発テロが、タリバンのそしてアフガニスタンの将来を変えた。

 3000人余を9・11テロで失ったブッシュ米政権は、01年10月、タリバンがテロの首謀者で過激組織アルカイダの創設者オサマ・ビンラディンをかくまっているとして、英国とともにアフガニスタンに侵攻したのである(「アフガン戦争」)。

 国連決議を基に多国籍軍による国際治安支援部隊(ISAF)が結成され、01年末までにタリバン政権は崩壊する。

 米英を中心とした国際社会から軍事的及び財政上の支援を受けながら、アフガニスタンは新憲法の採択、大統領選挙など民主化を進めてきた。

 しかし、アフガン侵攻から20年を経て、タリバンが戻ってくる。イスラム教の教えを厳格に実行するタリバンが復権すれば、女性の権利侵害や公開処刑など人権侵害に当たる恐怖政治の再来となる。

  「ジャーナリストだから殺される」

 「ここにいたら、私は殺される」。涙ながらにそう語るのは、アフガンの女性ジャーナリスト、ワヒダ・ファイジさん。滑走路までたどり着いた市民の一人だ。



「私は殺される」という、アフガン人の女性ジャーナリスト
(左、BBCニュースのウェブサイトから)

 英BBCの取材に応じるファイジさん。その声や表情を伝える動画は2分強に過ぎないが、途中で何度も停止ボタンを押さざるを得ないほど、悲しみと絶望感でいっぱいだ。

▽ファイジさんの動画(BBCニュース)
https://www.bbc.co.uk/news/live/world-58279900

 「自分の国を離れざるを得ない。この国を愛しているけれど、ここにはいられない」。

 タリバンは今、「私がジャーナリストであることを知っている。だから、殺される」。

 BBCの記者は、いつかはアフガニスタンに戻ってくるのよね、とファイジさんに声をかける。ファイジさんは、こう答えた。「決して、決して…戻らない。この国は、もう私の国ではなくなった」。

 8月28日時点で、カブール空港では米軍、英軍などがタリバンと連携を取りながら、自国民やアフガン人協力者らを中心に約10万人を飛行機に乗せた。出国を希望しがらも搭乗できなかった人、空港まで行きつくことさえできなかった人も多い。通訳や警備など米英軍の協力者となったアフガン人は「タリバンに命を狙われる」と怖れ、国内で避難状態だ。

 26日には空港近くで自爆テロ事件が発生。200人以上の死傷者が出た。タリバンを敵視するイスラム過激組織「イスラム国」が犯行を認めている。

「汚職が横行、国民は最貧生活」

 民主政権が崩壊し、タリバンの復権を招いた責任を「性急な米軍撤収を実施したバイデン政権」に求める人は少なくない。

 しかし、英上院の国際関係・国防特別委員会がまとめた定期報告書「英国とアフガニスタン」の最新版(今年1月発表、全126頁)によると、アフガニスタンは撤退決定以前からすでに「破綻国家」同然だった。汚職が横行し、国民は最貧生活を強いられてきた。

 英国は2001年以降の20年間で約15万人強を出兵させ、457人が戦死。14年には戦闘部隊としての任務を終えたが、15年以降はISAFを引き継いだ北大西洋条約機構(NATO)軍の一員として駐留し、アフガニスタンの「貧困、不安定な治安、不十分なインフラ、ぜい弱なガバナンス、経済、教育、ヘルスケア」の改善・支援のために協力してきた。

 アフガニスタンは英国の海外開発援助提供国のトップの部類に入り、アフガン国軍の研修・教育にも力を入れてきた。

 国際社会によるアフガニスタン支援の効果はどうだったのか。報告書が描くアフガン像は、残念ながら明るいものではない。

 「アフガニスタンは、依然として非常に不安定で、(アフガン政府の)支配は限定的」という。

 「タリバンによる反乱が続き、アルカイダや『イスラム国』が活動中だ」。

 2019年までの6年間、反乱やテロ活動の犠牲者となった市民は1万人を超え、その前の10年間の死者は10万人強。かつては外国人がアフガン人を殺傷していたが、今は「アフガン人がアフガン人を殺害する」状況になっているという。

 「過去20年間、英国は軍事及び経済上の支援を提供してきたが、現時点で一貫した国の政策が見えてこない」

 「国家財政は60%以上を海外からの援助金収入に依存し、国内収入を増やす見込みはほとんどない」。

 アフガニスタンは豊富な自然資源に恵まれた国だ。その鉱物資源は1兆ドル(約110兆円)もの価値を持つ。しかし、その資源のほとんどがアフガン市民にとって手が届かないものになっている。それは「治安の悪さ、不十分な司法体制、組織力の欠落、汚職」のためだという。

 世界の貧困度ランキングでは189カ国の中で170位。最貧国の1つだ。報告書は、新型コロナウイルス感染症の影響で、「貧困度が72%上昇する」と予測する。

 アフガニスタンは世界のトップクラスのヘロイン産出国でもある。麻薬経済は国内の勢力バランスの中で非常に重要な役目を果たす。多くの地方住民の雇用と生活がヘロインの基となるケシ栽培に依存している。過去20年間、英国はケシ栽培への依存状況を変えるために支援を続けてきたが、「ほとんど効果を上げていない」。英国で消費されるヘロインの95%の産出元がアフガニスタンだ。

 権力を乱用する軍部、警察

 国防及び国家の収入の大部分が外国からの援助によるため、政治家は「国民がどう思うか」を関知せず、「誰がどれだけ分け前を得るか」のみを気に掛ける。政治は互いへの利益供与で運営され、政治家は部族長や陰の実力者に賄賂を払って自分たちの汚職に目をつぶってもらっているという。

 拷問の撲滅、言論や報道の自由のための法体制は構築されたが、「これを実行する意志に欠けている」。アフガン政府は拷問や違法な殺害事件があってもこれを罰せず、「特に政府幹部がかかわった場合は免責」とする傾向があった。このため、権力を乱用する警察や軍部勢力は「行動を変える誘因がなかった」。

 「英国も、援助を提供するほかの外国政府も、アフガン国軍による権力の乱用やアフガニスタンの司法制度が免責を正さないことを指摘することはめったになかった」。つまりは、タリバン掃討という共通の目的のため、英国は「アフガン治安隊や軍部による虐待に目をつぶっていた」のである。

  女性の識字率16%

 国際社会が力を入れてきた「女性の地位の向上」では進展が見られた。政治、ビジネス、司法の場で女性の参加が増え、小中学生レベルでは37-40%が、高等教育では25-33%が学校教育を受けるようになった。しかし、入学の割合と卒業する割合には大きなギャップがあり、女性の識字率は16%にとどまった。

 人権組織アムネスティ・インターナショナルによると、アフガニスタンは世界でも最も多くの強制退去者を生んだ国だ。2019年末時点で、約297万人が国外退去し、約255万人が国内で住む場所を移動せざるを得なくなった人々だ。

 英シンクタンク「海外開発インスティテュート」は、国内外の強制退去者となったアフガン市民が「元の場所に戻る見込みはほとんどない」と分析している。

 欧州ができることの1つは難民の受け入れだが、英メディアでは「イスラム系テロリストが難民の中にいた」という報道も目にするようになっており、2015年の欧州難民危機の際のように、一旦は大きく開けたドアを次第に閉ざす方に向かうかもしれない。

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