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武隈 喜一

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2020年5月号

「バイデンは中国に弱腰だ!」 ―― トランプ陣営の選挙戦略

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 4月27日現在、米国国内の新型コロナウイルス感染者は97万人を越え、死者は5万4000人を越えた。
 トランプ大統領の感染症対策の初動については多くの批判が続いているが、専門家も同席した記者会見で飛び出した「消毒液を注射すればいい」という発言は、大統領がこのウイルスについて本気で取り組んでいないことを露呈し、激しい非難を浴びている。

  中国は 「Sleepy Joe」を望む

 しかし失言しようが、無知をさらけ出そうが、トランプ大統領は連日コロナウイルス・タスク・チームの記者会見をホワイトハウスのブリーフィングルームで行い、存在感を見せつけているのに対して、民主党陣営はバイデン候補1本に絞られたとはいえ、このウイルス報道に押されて、ほとんどメディアでの出番はない。集会を開くこともできず、SNSで発信を続けているが、2時間近い会見をライブでこなすトランプ大統領と比べると、手詰まり感が強い。
 しかし、好調な経済と歴史的に低い失業率が最大の頼みの綱だったトランプ陣営も、この命綱が雲散霧消したため、11月の選挙へ向けた新たな再選戦略の練り直しを迫られている。
 4月19日、トランプ大統領は「中国はSleepy Joe(バイデン)を望んでいる。バイデンはお手軽で、彼らにとって夢の候補者だ」とツイートした。「わたしは中国に厳しいが、Sleepy Joeは中国に弱腰だ」。
 トランプ陣営は、ウイルス対策での出遅れた対応への批判を、その発生源である中国を叩くことでかわし、「中国を攻撃」し米国民を守る「強い大統領」の姿を前面に出そうという思惑だ。

  「中国政府と結びつけよ」

 共和党全国上院委員会は、選挙ストラテジストが書いた57ページに及ぶ「選挙運動メモ」を作成した。政治専門サイト”Politico”によれば、そこでは経済にかわって、徹底的に民主党候補を中国政府に結びつけることを要点として、三つの重点項目が書かれている。
 1)中国がウイルスの原因だ、と強調せよ、
 2)民主党が中国に優柔不断であることを強調せよ、
 3)ウイルスの拡大を防ぐために中国からの入国禁止措置をいちはやく取ったトランプの功績を強調せよ。トランプ大統領の失政について問われたら、すぐに話を中国に切り替えろ、
とアドバイスしている。
 共和党は2020年の選挙を、中国叩きを中心に据えて組み立てようという戦略だ。トランプ支持の政治資金管理団体、スーパーPAC ”America First Action”が最近リリースした宣伝動画でも、バイデン候補がいかに中国側に立ち、中国に弱腰かを1分の動画のなかでこれでもかと繰り返し、それに対してトランプ大統領の素早い中国からの入国禁止が、多くの米国人の生命を救った、と強調している。

宣伝動画「バイデンは中国側に立つ」

  宣伝動画「バイデンは中国側に立つ」

 ただしメモの中でも、「非難すべききは中国系米国市民ではなく、あくまでもウイルスを隠蔽し、その危険性にウソをついていた中国共産党だ。中国共産党の殺人的独裁で苦しんでいるのは中国の民衆だ」と書き添えている。

  反中国感情が双方に重要なカギ

 一方、バイデン候補を支持する民主党のスーパーPAC “American Bridge”も、反トランプ動画をアップし、トランプ大統領は習近平主席を何度も賞賛して中国を信頼し、それが中国に説明責任を問わず、初動の失敗につながった、とコメントしている。
 新型コロナウイルス感染が広がる前の2019年の調査でも、57%の米国人が中国に対して反感を抱いており、今年2月のギャロップの調査ではその数字は67%に跳ね上がっている。また別の調査では共和党支持者の68%、民主党支持者の62%が中国の国力と影響力を米国にとって最大の脅威だとみなしていることからも、中国をめぐってどのような選挙戦略を築くかが、トランプ、バイデン両候補にとって、重要なカギを握っていると言える。

※反バイデン動画 https://youtu.be/Nv7yVCwv6NU

武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。
 

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