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ホワイトハウス、緊迫の6時間

元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈 喜一

 共和党下院議員のケヴィン・マッカーシーは暴徒に占拠された議事堂からトランプ大統領の娘婿で、中東から戻ったばかりのジャレッド・クシュナー上級顧問に電話し、同じく共和党の上院議員リンゼー・グラムは大統領の娘でホワイトハウスの中にいるイヴァンカの携帯電話に電話をかけ続けた。しかし、誰もトランプ大統領とは話ができなかった。大統領は執務室のテレビに釘付けになって、議事堂で起きている暴動の中継を見続けていたからだった――。

  昼過ぎ「アメリカを救おう」集会

 1月12日の『ワシントンポスト』が大統領顧問や議員、共和党幹部など15人にインタビューし、1月6日のホワイトハウス内の様子を再現している。
――昼頃から始まった「アメリカを救おう!」集会はトランプ支持者の熱気に包まれていた。「この選挙はバイデンと民主党にかすめ取られた」という根拠のない大統領の主張に同調する支持者たちは、「トランプ」と書かれた旗などを手に持って集まっていた。
 大統領の息子エリック・トランプは支持者に向かって「戦いを見せてやろう。立ち上がれ」と絶叫していた。続いて演壇に立ったもう一人の息子ドナルド・トランプ・ジュニアは「血気盛んな愛国的アメリカ人よ、トランプのために戦え!」と呼びかけた。舞台にはローラ・ブラニガンのヒット曲『グロリア』が大音響で鳴り響いていた。
 そこに登場したトランプ大統領は、議会で淡々と選挙人確認を続ける共和党議員を揶揄し、「この国を取り戻す誇りと勇気を見せてやれ」と支持者に呼びかけた。「ペンシルベニア通りを議事堂へ向かって行進だ!」
 ホワイトハウスへ戻ったトランプ大統領は「マイク・ペンスはこの国と憲法を守るためになすべきことをする勇気をもっていなかった。USAは真実を求める!」とペンス副大統領を批判するツイートを投稿した。

  午後2時、テレビ中継を見続ける大統領

 午後2時頃、暴徒たちがフェンスと警察の隊列を突破して議事堂になだれ込もうとしているのを見た報道室のスタッフたちは、大統領に何らかの声明を出してもらうべく、首席補佐官マーク・メドウズに相談した。
 ニューヨークへ向かうために空港に着いたトランプ・ジュニアは空港内のテレビモニターで、群衆が議事堂に押し入っている様子を見て、2時17分、「平和的に、修正憲法第一条を使え。この国を救うには、こんなことは役立たない」とツイートし、飛行機に乗り込んだ。
 しかしトランプ大統領は、執務室でテレビ中継を見続けていた。
 ケリーアン・コンウェイ前上級顧問が、トランプ大統領の側近に電話し、ワシントンDC市長から国家防衛隊の出動を大統領に要請してほしい旨の連絡があったことを伝えた。
 グラム上院議員の電話がイヴァンカにつながり、グラムは救援を訴えた。「大統領に、群衆がここを離れるよう演説してもらってくれ」とグラム議員は伝えた。
 ペンス副大統領は議事堂内の安全な場所へ避難した。シークレットサービスは議事堂を出るよう何度も促したが、ペンスは議事堂を離れなかった。ペンスは軍の幹部に電話し、事態の鎮静化のために部隊を動員するよう要請した。トランプ大統領からは、結局、ペンスの安否や居場所を確認する電話は一度もかかってこなかった。しびれを切らしたペンスの補佐官がホワイトハウスに連絡し、ペンスが無事であることを伝えた。

  バイデンが先制「米国の姿ではない」

 ホワイトハウスのウェストウィングでは、イヴァンカ、マケナニー報道官、メドウズ首席補佐官が、暴力に反対する声明を大統領に出させようと相談していた。メドウズ首席補佐官が大統領執務室に入る直前に、「犠牲者が出ている」という情報が耳に入った。
 2時30分すぎ、三人はトランプにツイートしてもらうことになった。トランプが投稿した内容は「どうか議事堂警察と警官隊に従ってほしい。彼らはわれわれの味方だ。平和的に!」というものだった。「平和的に」という文言を含めることにトランプ大統領は当初、抵抗を示した。
 マッカーシー下院議員は中東から戻ったクシュナーに電話し、ホワイトハウスへ向かうのは危険であること、大統領に対して、支持者が議事堂を離れるよう促す声明を出してもらうよう働きかけた。
 ホワイトハウスは大統領のビデオメッセージを出すことにした。しかし、バイデン次期大統領が先に中継を行い「この混乱する議事堂は本当のアメリカの姿ではない」と語りかけた。

  6時「今日の日を永久に覚えておこう」

 トランプ大統領のビデオ録画は3回のテイクを行った。ホワイトハウススタッフは最後の「あなた方は大変特別(special)だ」という一節が気になったが、4時過ぎに投稿した。ビデオの中でトランプは「これは不正な選挙だ。奴らの術中にはまってはならない。平和が必要だ。家に帰りなさい」と訴えた。
 ワシントンDC市長は6時からの夜間外出禁止令を出し、それに従って、6時には少数の人間を残してホワイトハウスのスタッフは帰宅した。
 ところが6時1分、トランプ大統領は新しいツイートを投稿した。「神聖なる地滑り的勝利が厚かましくも偉大なる愛国者たちから奪い取られた。愛国者たちは長い間、誰からもまともに公正に扱われてこなかった人々だ」そして最後に付け足した。「今日の日を永久に覚えておこう」。
 6時14分、議事堂の周りの警備体制が整った。

(2021.01.13)

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