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2020年10月号

希望が匂わない大統領選のシナリオ

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 個人的な体験を言えば、こんなに先行きの見えない興奮を誘う選挙は、1989年3月にモスクワで開かれたソビエト第1回人民代議員大会以来だ。その選挙で、ソビエト共産党書記長ゴルバチョフによって失脚させられていたボリス・エリツィンが9割の得票を得て当選し、長く反体制の物理学者だったアンドレイ・サハロフが当選した。これはソビエト崩壊を決定づける選挙だった。その時の選挙も混乱したが、希望の匂いのする選挙だった。
 おそらく今回の米国大統領選挙も、大国アメリカの行方を大きく左右する歴史的な選挙になるだろう。しかし、希望の匂いはしない。

  起こりうる数々の可能性

 選挙情勢をとりまく現状と、投開票日以降に起こりうる「可能性の数々」を “The Guardian”10月16日をもとに、整理しておこう。

◆10月中旬の段階で1000万人の有権者が投票を済ませているが、トランプ大統領は「郵便投票は不正だ」と言う発言を繰り返しており、ウィリアム・バー司法長官も、外国の勢力が投票用紙を印刷している可能性がある、「テキサスでは男一人が1700人分の郵便票を書いた」など、郵便票の正統性に疑問を抱かせる発言をしている。
◆期日前投票や郵便投票の多くは民主党支持者で、投開票日には全数がカウントされる可能性は低い。
◆トランプ大統領は支持者に「投票日には投票所に行き、投票の不正を監視せよ」と呼びかけている。これに応えて、投票日には、武装した民兵組織が「監視団」として姿を現す。
◆トランプ大統領が新たに郵政局長に任命したルイス・デジョイによる意図的な「改革」の結果、郵便票の到着が遅延する。
◆郵便票の有効到着日は州によって異なるが、投票者サインの確認などの作業が必要で、共和党が多数を占める州では、郵便票の規則がいっそう複雑になっている。
◆複雑化した規則に票が適合しているか否かを見極め、違反があった場合には異議を唱えるために、トランプ大統領は開票日当日、数千人の弁護士を全米の投票所に張り付かせる。
◆共和党は開票結果について、違反が見つかった場合は「死亡した人の名で投票がなされた」などとして調査を求め、バー司法長官は即座にこれに応じる。
◆トランプ支持者による開票作業妨害を防ごうと、民主党支持者が街頭へ出る。
◆これに呼応して街路へ出たトランプ支持の武装組織とバイデン支持者の間で小競り合いが起こる。
◆トランプ大統領が「反乱防止法」を宣言し、武装警官を投入すると同時に、連邦軍に「票の差し押さえ」を命じ、それによって「票の集計作業」はさらに大幅に遅れ、一部では中止される。
◆カギを握るスウィング・ステイツの開票結果に対し、トランプ陣営から正当性を疑問視する声が上がり、12月8日までにスウィング・ステイツでの勝者が決まらず、憲法上の権限で州議会が選挙人を選出することになる。
◆共和党が多数を握るペンシルベニア、ミシガン、ノースカロライナ、フロリダ、アリゾナ、ウィスコンシンの各州では、集票プロセスが不当で選挙結果は法的正統性を欠く、との訴えが出され、投票そのものを無効と宣言して州議会がトランプを支持する選挙人を選ぶ。
一方、民主党知事たちは「投票は正当なものであり、当選者は決まった」と宣言し、州議会が選んだ選挙人とは別の、開票結果通りバイデンを推す選挙人を選出する。
◆これによって、ひとつの州に別々の候補を推す2人の選挙人が生まれ、12月14日の選挙人投票の日を迎える。
◆民主・共和両党がそれぞれの選挙人の正当性を主張した場合、米国憲法には明確な判断規定がないため、修正憲法第12条によって、マイク・ペンス副大統領が、いずれの側の選挙人を妥当とするか判断する。
 ⇒その場合、トランプが当選
◆下院がその結果に反対し、選挙の勝者が確定するまでの期間としてペロシ下院議長を臨時大統領に任命するが、共和党はこれを認めず、トランプ大統領の二期目の就任式を強行する。
◆係争は最高裁判所の審議に任されるが、保守派判事が多数を占める最高裁では、トランプ大統領が勝利したとの判断が下される。

※選挙後の想定される展開は下記を参照
https://www.theguardian.com/us-news/ng-interactive/2020/oct/16/us-presidential-election-scenarios-timeline
https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2020/11/what-if-trump-refuses-concede/616424/
https://www.washingtonpost.com/outlook/2020/09/03/trump-stay-in-office/?arc404=true
(2020.10.16)

武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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