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「カーニバルは終わった」か

元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈 喜一

 10月17日までに、すでに期日前投票、郵便投票を合わせて1800万人により投票権が行使された。CNNの世論調査では16ポイント、NBCの調査では11ポイント、そしてガーディアンの調査では17ポイント、バイデン候補がトランプ大統領をおさえてリードしている。もし現職が敗れることになれば、ブッシュ(父)がビル・クリントンに敗れて以来28年振りだ。
 民主党は上院選挙でも共和党をリードしている模様で、もしバイデン候補が勝つと、民主党は大統領、上院、下院を制することになる。 予備選で無謀にも現職トランプ大統領に挑み敗北した共和党のジョー・ウォルシュ氏は「11月3日の夜、トランプは負ける。共和党員にとっては死屍累々(ししるいるい)となるだろう」と予測している。

  高齢者も女性も支持離れ

 トランプ陣営は、高齢者がトランプ支持の熱狂から離れているのが不安の種だ。2016年のフロリダでの勝利は、高齢者層の支持が大きな要因だった。しかし今年は、高齢者層は新型コロナウイルスへのトランプ大統領の対応に大きな不満を持っている。
 それに加えて、自分より3歳年上の77歳のバイデン候補を老人施設の車椅子の住民に見立て、「バイデン、入居者」として投稿されたトランプ大統領のツイート(写真)は、高齢者以外の共和党支持者からも顰蹙(ひんしゅく)を買った。
 そして、4年前にトランプを支えながら、今年は急速にトランプ離れを起こしているのが、都市近郊の女性層だ。女性有権者の多くはトランプの男性中心主義的な発言や、バイデン候補との討論会で見せた粗暴な振る舞いに拒絶反応を示している。その危機感を感じたトランプは、10月13日のペンシルベニア州ジョンズタウンでの集会で、「お願いだ、郊外の女性たち、わたしを好きになってくれ」と猫なで声で訴えた。
 新型コロナウイルスからの退院後もトランプ大統領は精力的な選挙活動を続けているが、テレビネットワーク各局が集会の様子を伝える回数は明らかに減っている。大統領が振りまく陰謀論に熱狂する支持者の姿も、ある種、カルトじみていて、新鮮な驚きに欠ける光景と言わざるを得ない。退屈でさえある。今後4年間の政策が語られることは、まったくない。
 アイオワやジョージアといった伝統的に共和党が強い州での集会においてさえ、トランプ大統領は天を指して「われわれには天のボスからの助けが必要なんだ」と冗談とも本気ともつかぬ言葉を放った。
 「カーニバルは終わった」――4年前には度肝を抜いたトランプ流の集会が、退屈なルーティンに化したその様子を見て、あるコメンテーターはそう言った。
 資金繰りに窮したトランプ陣営は接戦州のテレビCMも引き上げているようだ。

  トランプは本気で勝つ気でいるのか

 政治学者の中には「トランプはもう規律もなければコントロールもきかない。この選挙に勝とうとしているとも思えない。とても勝利を狙う候補者の戦略とは思えない」といった声も出ているほどだ。
こうしたトランプの様子を自暴自棄と受け止めたバイデン候補は、支持者にこう訴えた。「トランプはシステムキッチンでさえ、わたしに向かって投げつけかねない。大量のウソと一緒に」。
 別の政治学者は”The Guardian”紙に対してこう言っている。「トランプが選挙を揺さぶることはもうできないだろう。揺さぶるには水爆級の何かが必要だ。各州の世論調査が伝える通り、アップアンドダウンはない。選挙は事実上終わった」。
 ――だが、4年前、投票日の直前まで、『ニューヨークタイムズ』や『ハフィントン・ポスト』は「トランプの勝つ確率は二桁に届かないだろう」と言っていたことを思い返すと、「カーニバルが終わった」と言い切ることは、わたしにはできない。カーニバルには二日目の夜があるかもしれないからだ。

(2020.10.17)

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