トランプの主戦場はYouTube

元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈 喜一
TVの選挙CMは出来合いの60秒宣伝VTRを流すだけだが、トランプ陣営のYouTube動画は、長いもので30分以上にわたる。自陣に有利なFox Newsからのニュース映像やキャンペーン動画をふんだんに取り入れたり、オリジナルのショーをさしはさんだりする、YouTubeの特徴を存分に生かすユニークなものだ。トランプ大統領やペンス副大統領のショート・コメントを次々につないでいるので、発言のチェックもしやすい。映像のセンスも民主党のバイデン陣営のものより数段上だ。
YouTubeのキャンペーン映像
TV広告から手を引く
実は8月後半の共和党全国大会以降、トランプ陣営はほとんどのTV広告から手を引いている。対抗するバイデン陣営は8月には約8000万ドル(約88億円)をウィスコンシン、フロリダ、ペンシルバニア、ミシガンなどの激戦州のTV広告につぎ込み、8月最終週だけでも1830万ドル(約20億円)をTV広告に充てているが、一方トランプ陣営はアイオワ、モンタナと、前回の選挙で接戦を制した2州にわずか160万ドル(約1億7600万円)を使っているだけだ。しかもほとんどがFox NewsとCNNだ。
トランプ陣営は9月7日のレイバーデーから選挙当日の11月3日まで2億ドル(約220億円)をTV広告費として予算化しているが、広告媒体の根本的な見直しも進めているようだ。そしてその主戦場がYouTubeとなっているのだ。
RNC(共和党全国委員会)とトランプ陣営の共同ファンドは、Googleが保有するYouTubeに、すでに6500万ドル(約71億円)を投じている。そのうちの3000万ドル(約33億円)が7月以降の支出だ。これに対してバイデン候補とDNC(民主党全国委員会)は、これまでの総額で3300万ドル(約36億円)とトランプ陣営の半分だ。8月だけでもトランプ陣営は900本の動画をYouTubeにアップしたが、バイデン陣営は100本にとどまっている。
18歳~29歳の9割が使用
多くのデジタル専門家によれば、YouTubeのアルゴリズム(情報処理の手順)は、定期的にアップデートされた最新のコンテンツがユーザーの届くようになっており、共和党のデジタル戦略担当は「トランプ陣営のデジタルキャンペーンは、アルゴリズムの使い方に関してはマスタークラスだ」と評している。YouTubeは米国でもっとも人気のあるオンライン・プラットフォームであることは周知のことだが、18歳から29歳の米国人の9割が利用している。InstagramやFacebookよりも高い使用率だ。25歳から34歳層でも利用率は高い。
トランプ陣営によれば、前回2016年には、Facebookの強力なターゲッティング能力と投稿コンテンツへのチェックの緩さがYouTubeよりもすぐれていたが、今回はバイデン陣営もFacebookをつかっており、アドバンテージが減ったため、YouTubeを主戦場に切り替えたとしている。ファンドレイジングなどではいまでもFacebookを主に使っているとも語っていて、メディアの特徴を細部まで分析し、その特徴を最大限に活かしてキャンペーンにつなげているようだ。実際、2016年の選挙ではトランプ陣営は1000万ドル(約11億円)しかYouTubeに落としていない。
キャンペーン動画、5億ビュー
トランプ陣営の選挙キャンペーン動画はこの4か月の間にYouTubeで5億900万ビューを獲得している。バイデン陣営はただ、党大会での演説をそのままフルバージョンでアップしているだけだが、トランプ陣営はトランプ大統領の演説を28のクリップに小分けしてアップするなど、見やすく、アクセスしやすくしている。サブスクライバーの数も4月には32万件だったものが、8月末には100万件に及んでいる。一方バイデン側は3万2000件から17万3000件に伸びただけだ。
もちろん、YouTubeだけが選挙戦略の要ではないが、2016年の選挙時には、実は多くのメディアが、トランプ陣営の巧妙で戦略的なFacebookの使い方に、選挙が終わるまでほとんど気が付いていないか、その意義をとらえ損ねていた。若年層への影響力を考えると、トランプ陣営のYouTube戦略が効果的なのは間違いない。
「大統領選 メディアの現場から」の他の記事
-
地味? バイデン大統領
すったもんだしたものの、1月20日にはバイデン新大統領が誕生したアメリカ。その数日前、5人の死者が出た議事堂乱入事件が起きた時には、どうなるものかハラハラさせられましたが、州兵2万...
-
関口 宏
2021.02.01
-
-
「行動は今だ」―武装右翼から大統領への書簡
首都ワシントンDCには、1月20日に行われるバイデン次期大統領の就任式に向け、治安を維持するために2万人の州兵が動員される予定だ。いま米軍が海外の紛争地域に展開している兵員数は、1月...
-
武隈 喜一
2021.01.16
-
-
ホワイトハウス、緊迫の6時間
共和党下院議員のケヴィン・マッカーシーは暴徒に占拠された議事堂からトランプ大統領の娘婿で、中東から戻ったばかりのジャレッド・クシュナー上級顧問に電話し、同じく共和党の上院議員...
-
武隈 喜一
2021.01.15
-
-
議会に突入、名うての陰謀論者、右翼たち
1月6日に首都ワシントンDCでの暴動の旗振り役が徐々にあぶりだされている。CNNなどによれば、多くが陰謀論組織QAnonや、〈プラウド・ボーイズ〉など、トランプ支持を表明してきた過激な武...
-
武隈 喜一
2021.01.08
-
-
アメリカ議会が包囲された日
1月6日は、各州で決まった選挙人の数を両院議員の会議で数え上げ、上院議長が「次期大統領」を宣言する日になるはずだった。通常ならば、投票から始まった大統領選挙の長いプロセスに、最...
-
武隈 喜一
2021.01.08
-
-
アメリカは誰のものか
12月11日、米国食品医薬品局はファイザー社の新型コロナウイルスワクチンに、初めて緊急使用許可を出した。まず290万回分のワクチンが供給され、医療従事者や施設の高齢者を対象に接種が始...
-
武隈 喜一
2021.01.01
-
-
「選挙は不正」は、あこぎな「資金集め」?
バイデン次期大統領の政権移行チームへの機密情報のブリーフィングも始まり、国務長官、財務長官など主要閣僚も続々と発表された。 トランプ側が「選挙に不正があった」として仕掛けて...
-
武隈 喜一
2020.12.07
-
-
4年も磨いた「ウソを売る技術」
トランプ大統領は大勢の支持者を前にこう述べた。 「大事なことは他のコミュニティを監視することだ。この選挙が盗まれないように。この選挙が盗まれないことを望む」。 そしてツイ...
-
武隈 喜一
2020.11.25
-
-
「永遠の虚偽」と権力の正当性
米国のような民主的な社会の国でも独裁支配は成立しうる。人は指導されていたいという欲望と、自由でいたいという欲望にとらわれているからだ。大統領を選んだのは自分たちなのだ、と考え...
-
武隈 喜一
2020.11.25
-
-
もし大統領から電話がきたら?
ミシガン州ウェイン・カウンティはデトロイトを含む大都市圏だ。ミシガン州では、バイデン候補がおよそ14万8000票の大差をつけて、トランプ大統領を破っている。僅差ならともかく、これだ...
-
武隈 喜一
2020.11.22
-