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2020年9月号

トランプの主戦場はYouTube

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 2016年の大統領選挙ではFacebookを使いに使ってヒラリー・クリントン候補を圧倒したトランプ陣営が、今年の大統領で宣伝活動の主戦場として選んだ媒体はYouTubeだ。
 TVの選挙CMは出来合いの60秒宣伝VTRを流すだけだが、トランプ陣営のYouTube動画は、長いもので30分以上にわたる。自陣に有利なFox Newsからのニュース映像やキャンペーン動画をふんだんに取り入れたり、オリジナルのショーをさしはさんだりする、YouTubeの特徴を存分に生かすユニークなものだ。トランプ大統領やペンス副大統領のショート・コメントを次々につないでいるので、発言のチェックもしやすい。映像のセンスも民主党のバイデン陣営のものより数段上だ。




YouTubeのキャンペーン映像

  TV広告から手を引く

 実は8月後半の共和党全国大会以降、トランプ陣営はほとんどのTV広告から手を引いている。
 対抗するバイデン陣営は8月には約8000万ドル(約88億円)をウィスコンシン、フロリダ、ペンシルバニア、ミシガンなどの激戦州のTV広告につぎ込み、8月最終週だけでも1830万ドル(約20億円)をTV広告に充てているが、一方トランプ陣営はアイオワ、モンタナと、前回の選挙で接戦を制した2州にわずか160万ドル(約1億7600万円)を使っているだけだ。しかもほとんどがFox NewsとCNNだ。
 トランプ陣営は9月7日のレイバーデーから選挙当日の11月3日まで2億ドル(約220億円)をTV広告費として予算化しているが、広告媒体の根本的な見直しも進めているようだ。そしてその主戦場がYouTubeとなっているのだ。
 RNC(共和党全国委員会)とトランプ陣営の共同ファンドは、Googleが保有するYouTubeに、すでに6500万ドル(約71億円)を投じている。そのうちの3000万ドル(約33億円)が7月以降の支出だ。これに対してバイデン候補とDNC(民主党全国委員会)は、これまでの総額で3300万ドル(約36億円)とトランプ陣営の半分だ。8月だけでもトランプ陣営は900本の動画をYouTubeにアップしたが、バイデン陣営は100本にとどまっている。

  18歳~29歳の9割が使用

 多くのデジタル専門家によれば、YouTubeのアルゴリズム(情報処理の手順)は、定期的にアップデートされた最新のコンテンツがユーザーの届くようになっており、共和党のデジタル戦略担当は「トランプ陣営のデジタルキャンペーンは、アルゴリズムの使い方に関してはマスタークラスだ」と評している。
 YouTubeは米国でもっとも人気のあるオンライン・プラットフォームであることは周知のことだが、18歳から29歳の米国人の9割が利用している。InstagramやFacebookよりも高い使用率だ。25歳から34歳層でも利用率は高い。
 トランプ陣営によれば、前回2016年には、Facebookの強力なターゲッティング能力と投稿コンテンツへのチェックの緩さがYouTubeよりもすぐれていたが、今回はバイデン陣営もFacebookをつかっており、アドバンテージが減ったため、YouTubeを主戦場に切り替えたとしている。ファンドレイジングなどではいまでもFacebookを主に使っているとも語っていて、メディアの特徴を細部まで分析し、その特徴を最大限に活かしてキャンペーンにつなげているようだ。実際、2016年の選挙ではトランプ陣営は1000万ドル(約11億円)しかYouTubeに落としていない。

  キャンペーン動画、5億ビュー

 トランプ陣営の選挙キャンペーン動画はこの4か月の間にYouTubeで5億900万ビューを獲得している。バイデン陣営はただ、党大会での演説をそのままフルバージョンでアップしているだけだが、トランプ陣営はトランプ大統領の演説を28のクリップに小分けしてアップするなど、見やすく、アクセスしやすくしている。
 サブスクライバーの数も4月には32万件だったものが、8月末には100万件に及んでいる。一方バイデン側は3万2000件から17万3000件に伸びただけだ。
 もちろん、YouTubeだけが選挙戦略の要ではないが、2016年の選挙時には、実は多くのメディアが、トランプ陣営の巧妙で戦略的なFacebookの使い方に、選挙が終わるまでほとんど気が付いていないか、その意義をとらえ損ねていた。若年層への影響力を考えると、トランプ陣営のYouTube戦略が効果的なのは間違いない。

(2020.09.06)

武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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