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2020年9月号

負けたら戒厳令を敷け!

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 トランプ大統領の元側近にロジャー・ストーンという人物がいる。長年、共和党のストラテジストをつとめ、2016年の選挙ではトランプ陣営の選挙アドバイザーとして当選に貢献したが、ロシア疑惑で議会にウソの証言をしたとして禁固3年4か月の実刑を下されたにもかかわらず、今年7月にトランプ大統領によって刑が免除された人物だ。

  クリントン夫妻を逮捕せよ

 ロジャー・ストーンは背中に「リチャード・ニクソン」と刺青を入れるほど偏執的な超保守派だ。このロジャー・ストーンが、9月10日Alt-right(過激な右翼)の陰謀論者アレックス・ジョーンズのOnlineショーに出演し、もし11月の選挙に負けたら、選挙の敗北を認めず、米全土に戒厳令を敷き、ビル・クリントン、ヒラリー・クリントン夫妻や、FacebookのザッカーバーグCEOらを逮捕して全権を掌握するよう大統領にアドバイスしたことを明らかにした。
 またストーンは、ネバダ州で期日前投票に大規模な不正が行われているとして、選挙当日、ネバダ州に連邦執行官を送り、投票箱を没収するよう進言した。
 ロジャー・ストーンにはもはや政権中枢への影響力はないし、もともと大言壮語して世間の耳目を集めることしか頭にないような人物だ。しかし、出演したOnline番組を主宰するアレックス・ジョーンズは、MAU(アクティブユーザー)が1000万件を超える”Infowars”という、フェイク・ニュースと陰謀論を組織的に流布させるウェブサイトを運営し、極右トランプ支持派の間で絶大な影響力をもつ。

  世情不安を煽る選挙戦略

 トランプ大統領は、民主党バイデン候補の背後には過激なAftifaがいて、暴力行為を煽っていると盛んに社会不安を訴えているのだが、社会不安を煽る発言は、今回のロジャー・ストーンやアレックス・ジョーンズのようなトランプ支持派の陰謀論者から発せられることの方が圧倒的に多く、さまざまな機会とチャンネルを使って世情不安を煽りに煽るのがトランプ陣営の戦略と言える。
 ちなみに米国大統領は1807年制定の”Incurrection Act”(反逆法)を行使して連邦軍を国内危機の鎮圧にあたらせる権能を持っている。
 Washington Post紙も、今年6月19日には、この「反逆法」の特集をしていて、もしもの場合、大統領は軍を使って何ができ、何ができないか、を詳細に書いている。
https://www.washingtonpost.com/politics/2020/06/19/under-insurrection-act-1807-heres-what-us-president-can-cannot-do/
 1993年、モスクワ支局長として世情不安のロシアで勤務していた時、当時のロシアの新聞に、エリツイン大統領が憲法上の規定で軍を使ってできることとできないことを表にして解説する記事が掲載されていたことを思い出した。
(2020.09.13)

武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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