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2020年7月号

大統領、ナチスのマークを悪用

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 トランプ大統領の常識外れの選挙キャンペーンには慣れたつもりだったが、6月18日のWashington Postを見てまたひとつ驚いた。「トランプ選挙チーム、ナチスが政治囚に用いたマークをキャンペーンに使用」という見出しで、赤い逆三角形のマークが出ていた。そしてその上には選挙を仕切る「Make America Great Again Committee」の名で、「極左の危険なならず者の群衆がわたしたちの通りを駆け抜け、とんでもない混乱を引き起こしています。彼らは街を破壊し略奪しています。狂気の沙汰です」とメッセージがかかれている。

  赤の逆三角を付け収容所へ

 この赤い逆三角形は、トランプ大統領が「テロリスト」と名指しした過激派Antifaを示すもので、「危険注意の呼びかけ」に使われている。


ナチスが政治犯に着せた囚人服のマーク

 しかし1930年代には、この赤い三角形は、ヒトラー政権下でナチスが政治犯を識別するために使ったものだった。コミュニストを「国家の敵」とみなしたナチスは、共産主義者だけでなく、ヒトラーに反対する自由主義者的な言論人の多くを非合法に逮捕し、この赤い逆三角形を縫いつけた囚人服を着せて強制収容所に送り込んだ。ユダヤ人をかくまった人々も同様に投獄された。そして赤い逆三角形の服を着せられた人のほとんどは、強制収容所で殺されている。


ナチスが囚人に使った識別マーク

 ナチスは囚人識別を詳細に図式化し、赤い逆三角形は政治犯、濃紺は非合法移民、ピンクは同性愛者などに分け、ユダヤ人には黄色いダビデの星を縫い付けた。
 米国にはナチスを逃れて来たユダヤ人や、収容所で家族を殺されたユダヤ人、反ナチス政治犯の家族がいまでも数多く暮らしている。ニューヨークではナチスの鉤十字を落書きした場合、ヘイトクライムとみなされて訴追される。この赤い逆三角形は「歴史に埋もれた過去」ではなく、今も生き続ける人々の記憶に痛々しく刻まれた非合法の差別と迫害の象徴なのだ。

(2020.06.18)



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武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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