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2020年10月号

「トランプ・クーデターは起こりえない」か?

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 このところ、選挙投開票日の混乱やその後の騒乱の可能性を想定する記事やリポートが米国のメディアを賑わしているが、「トランプのクーデターは起きない」と固く信じる人たちもいる。『ニューヨークタイムズ』(10月10日)のコラムニスト、ロス・ダウザットの見解はこうだ――

  ダウザットは言う「独裁者」の要素が欠如

 たしかにトランプ政権の4年間は、独裁主義的(authoritarianism)な特徴を様々な形で見せつけてきたが、トランプ大統領には「独裁主義」の要素が欠如している。
・トランプは世界の中の他国の「独裁者」にあるような人気と政治的スキルを持っていない。
・メディアへの支配力を持っていない。Foxのプライムタイム以外は敵意に満ちたメディアに囲まれている。
・軍の幹部に軽蔑されている。
・シリコンバレーのSNS各社も、FacebookのザッカーバーグCEOは別として、トランプを支持するよりは、その発言を検閲している。
・最高裁も、トランプ大統領が推薦した判事さえ、トランプの決定に反する判断を下す場合がある。
・トランプはCIAやFBIといった情報機関と常に対立して戦争状態にある。
・大統領を支える大衆運動がない。
・メキシコとの間に壁を作る、と息巻いていたし、違法移民を子供と分離したが、壁は完成せず、子供との引き離しも世論の声で撤回を余儀なくされた。

以上のような理由で、トランプに反対し、トランプを嫌いな人は、トランプが負ければ、彼はホワイトハウスを引き上げるだろう、そして非合法的に権力を維持しようとする試みはあり得ない想定だ、と確信できる。
 トランプが共和党をけしかけて選挙結果を妨害したり、暴力集団をけしかけて最高裁にバイデンの勝利を無効にさせたりすることは、われわれが見てきたこの4年間のトランプ政権の姿とは無縁だ。われわれの弱い、威張るのが好きな大統領はクーデターを計画していない。トランプには「計画」する各種の力と能力が欠けているからだ。
 2016年にリベラリズムはたしかに負け、多くのリベラル派は、そのうち自分たちはプーチン政権下の反対派や、ワイマール時代の自由主義者のようになるのではないかと考えてきたが、実際にはトランプ政権下でリベラリズムはアメリカ社会の一層支配的な力になり、進歩し、文化面でも高まった。
――以上がロス・ダウザットの見立てだ。

  だが、恐怖の種を上手に蒔いてきた

 どんなに自由に見える社会でも「恐怖」に直面した時に、人びとの感情と行動はたちどころに大きく旋回する。あらゆる独裁主義は「恐怖」の種を、時には微量に、時には大量に日常の中に振りまきながらやってくる。そして「恐怖」を大きく育てるのはいつも、人びとの「無関心と沈黙」だ。わたしには、トランプ大統領は、この4年間「恐怖の種」を上手に蒔いてきたと思える。

(2020.10.19)

武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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