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2020年8月号

中国を標的に――バノンの戦略

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 トランプ大統領を2016年の選挙で勝利に導いた立役者スティーブ・バノンは、首席戦略官というホワイトハウスの要職を離れた後も、2020年の選挙へ向けてトランプ再選のためのグランド・デザインを描き続けている。「トランプ政権への影響力はもはやない」と言う人もいるが、バノンはトランプ側近という立場を超えて、米国の危機の在り処を突き付け、その克服のために政治権力を使おうとしている。バノンの世界観は、2014年夏のバチカンでの会議にOnlineで送った講演に明確にあらわれていて、現在にいたるまで一貫しているが、みずからを「右のレーニン主義者」と規定するこの戦略家は冷徹で、権力の奪取と維持のためには手段を選ばない。
(バチカン演説は以下)
https://www.buzzfeednews.com/article/lesterfeder/this-is-how-steve-bannon-sees-the-entire-world

 香港に拠点を置く英字新聞 “Asia Times”(7月12日)のインタビューでも、バノンは中国共産党を徹底的に標的とすることで、トランプ再選を勝ち取る見取り図を描いている。※以下は”Asia Times”のインタビューの要約だ。
(インタビューの英文全文は以下)
https://asiatimes.com/2020/06/bannon-tells-at-us-election-is-all-about-china/

 ここからうかがえるのは、米国と中国との軋轢が「のど元過ぎれば終わる」ようなものではなく、たとえ米政権が変わろうとも、容易に引き返せない地点まで来てしまっていることがわかる。そしてまた、このインタビューからはトランプ陣営の、残り3か月半の選挙戦略が見えてくる。

※     ※     ※

 2016年当時、米国の中間層と労働者層は、史上初めて米国が衰退の途にあり、エリート層はそのことに無頓着だと感じていた。トランプはそこに焦点を当てた。ヒラリー・クリントンはグローバリズム推進者でエリート層の人間だった。
 トランプは就任初日から米国の衰退と闘っている。このナショナリストとグローバリストの闘争を、もっと先鋭に打ち出すべきだ。2020年は2016年の選挙の続きだ。最後の150日が勝負だ。グローバリストのジョー・バイデンとウォール・ストリートの党である民主党vs経済ナショナリズムの闘いだ。
 闘いの中心は中国問題だ。わたしは、21世紀はアジアの世紀だと確信している。中国共産党との対立が、2020年の選挙の唯一重要な問題だ。
 トランプは現在、世論調査では負けている。しかし、米国に対する経済戦争が2020年の選挙戦の中心となるだろう。
 中国政府はギャングの集団だ。中国共産党はまったく正統性がない。中国民衆の自由を奪い、ウイグル族、チベットの仏教徒、地下のカトリック教会に対して行ったことは恐ろしいことだ。
 そして中国は、台湾、日本、韓国、インド、シンガポール。ベトナムなどあらゆる国の政府とも対立している。各国政府は中国共産党を警戒せよ、と理解しているはずだ。南シナ海でもインドとの国境でもそれがはっきりしている。
 中国共産党は、20世紀が積み残した問題だ。中国共産党は米国に情報・サイバー戦争と経済戦争をしかけている。
 トランプは米国史上、中国共産党に立ち向かった唯一の大統領だ。米国政府も米国民も中国共産党が仕掛けた対立のまっただなかにいる。香港は1938年のオーストリアと同じ状況だ。米国政府とトランプ大統領は貿易協定を撤回し、香港で中国共産党とビジネスをおこなう企業、銀行に制裁を科すべきだ。そうすれば、中国共産党が香港を、これまで数十年にわたってやってきたように、資本市場として利用することができなくなる。
 わたしがアドバイスしたいのは、中国共産党を西側の資本と西側のテクノロジーから徹底的に締め出せ、ということだ。
 中国は2019年に「一帯一路」の提唱が成功すると、ファーウェイ主導の5Gや素粒子コンピュータを打ち出し、”Made in China 2025”宣言がうまくいくと、AIやバイオテクノロジー分野にも独自に進み始めた。2019年の段階では中国は「勝てる」と思っていたはずだ。唯一の障壁がドナルド・トランプだった。そこで、米国に情報戦争と経済戦争と仕掛けた。
 中国の焦点はパキスタン、イラン、トルコ、ロシアを巻き込んでユーラシア大陸を支配することで、米国をなるべくユーラシアから遠ざけ、太平洋のグアムまで押し戻すことだ。中国はその道筋を整えたと言える。
 中国共産党は即時解体すべきだ。言論の自由、集会の自由、宗教の自由を保障すべきだ。そうすれば数十年のうちに中国は繁栄するだろう。
 現在の状況は、オバマ政権が中国を甘やかしてきたことにある。オバマ政権は習近平主席と南シナ海の非軍事化やサイバー攻撃の中止について話し合ったが、中国はひとつも守っていない。オバマ政権の副大統領だったバイデンも米中関係の失敗に責任がある。中国をWTOで野放しにしたのも、中国に有利な貿易協定を結んだのもオバマ=バイデンが中国に甘かったからだ。バイデンが2020年の選挙に勝てない理由は、米国の有権者は親中国のグローバリズム主義者には投票しないからだ。
 これからの150日間で、米国民はバイデンがこれまでどんなことをしてきたかを知るだろう。バイデンと息子は中国共産党に米国を売ったのだ。わたしはこの150日間を、バイデンが何者で何をしてきたかを知らせることに費やす予定だ。
 21世紀はアジアの世紀だ。米国は太平洋のパワーだ。トランプ大統領がやったことは、大西洋や旧世界から新しい世界に外交政策をシフトしたことだ。
 しかし、中国共産党の戦略は見事だとも言える。一帯一路でユーラシア大陸を押さえ、海洋では海軍のすべての要所を押さえ、民主主義をアジア大陸から数千キロも遠いグアムに追いやろうとしている。だが、中国は悪の帝国でナチスと同じだ。ファシストだ。全体主義独裁制で、中国国民のことなど考えていない。
 中国共産党は資本市場を持っていない。その理由は、民衆が自国の法の支配を信じていないからだ。香港がいい例だ。「50年間一国二制度を守る」と言っていたが、ウソだった。
 自由を愛する者は、そして米国国民は中国共産党と対決しようと考えているし、中国民衆を支援しようとしている。なぜならば、中国の民衆だけが、中国共産党を倒せるからだ。それを支援することがわたしの生涯の仕事だ。
(2020.07.13)

武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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