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2020年9月号

「トランプは敗北を認めない」が47%

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 2000年の米大統領選挙で、民主党のアル・ゴア候補がフロリダ州の得票数で共和党のジョージ・W・ブッシュ候補に、わずか537票差で敗れたことが連邦最高裁で確定したのは、投票日から1か月以上経った選挙人確定日当日の12月12日だった。

  ブッシュの勝利宣言は1か月後

 この時には、さらなる再集計を求めることは可能だったが、翌12月13日の夜、ゴア候補は「最高裁判決には同意できないが受け入れる」「国家を分断させるよりも団結させるべきだ」とテレビで敗北宣言を行い、それを受けて、ブッシュ候補も、改めて勝利宣言を行った。35日間の法廷闘争だった。この時のフロリダ州の投票総数は582万5000票だったから、0.0092%の差で、ブッシュ大統領が誕生したことになる。
 さて、もし、僅差で敗れた場合、トランプ候補は、「同意できないが、敗北を受け入れる」と言うだろうか。そう敗北宣言するドナルド・トランプの姿を想像できるだろうか。トランプ大統領自身、8月17日に「the only way we're going to lose this election is if the election is rigged(われわれがこの選挙で負けるとすれば、それはこの選挙で不正が行われたときだけだ)」と述べ、姿勢を明確に示している。
 The Guardian紙の世論調査によれば、「トランプ候補は選挙で負けても、敗北を認めることを拒否するだろう」と答えた人の割合は47%に上った。バイデン支持者でそう思う人は75%、トランプ支持者では30%がそう考えている。
 また逆に「バイデン候補は選挙で負けても敗北を認めることを拒否するだろう」と考えている人は、トランプ支持者で41%、バイデン支持者で28%となっている。

  「今まさに不正が進行中」

 すでにトランプ支持者の60%が「この選挙はいままさに不正が行われている」と考えており、バイデン支持者も53%がそう思っている――つまり米国では有権者の過半数が自国の選挙システムの公平性を信用していないし、対立候補を信頼していないのだ。米国の分断のきわまったところが、自国民主主義の根幹であるはずの選挙システムへの不信に行きついている。
 またトランプ支持者の73%が「郵便投票は不正の温床になりうる」と懸念しており、バイデン支持者の36%を大きく上回っている。トランプ陣営の宣伝が効果をあらわしているだろう。
 選挙結果は「翌日に出る」と思っている人は36%、「一週間以内」が23%、「11月の末までに」は17%にのぼっている。
 選挙当日の夜、開票結果は圧倒的にトランプが優勢でトランプ陣営は早々に勝利宣言を行う。しかし何日かのタイムラグがあって、郵便票が集計された結果、バイデン優勢となるが、トランプ陣営は、「選挙に不正があった」として、連邦裁判所に訴え出る――こうした展開も予想されるが、こういった事態に、バイデン陣営はどう備えているのだろうか。

  大票田の集計遅れる

 現在の選挙法では、12の州で投票日前の郵便票の開票は求められておらず、その中にはミシガン州、ニューハンプシャー州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州などの激戦州が含まれている。このままだと、フィラデルフィアやミルウォーキー、デトロイトなどの民主党の大票田の集計は何日か遅れることになる。バイデン陣営では法律の改正を求めている最中だ。たとえば、新型コロナが猛威を振るう今年はミシガン州では投票60%の約300万票が郵便投票になることが予想されている。民主党では投票日前に郵便票の開票をはじめ、サインが登録されたものと異なる場合は、その投票者に接触できるよう法の改正を求めている。しかしこの法案が通らなければ、バイデン有利とされる開票結果の判明は11月6日か7日になる可能性がある。
 トランプ大統領の「郵便投票はつねに不正の温床だ」という発言は、いまからこの展開を見越したものであることは間違いない。
(2020.09.02)

武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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