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この選挙は米国を壊す

元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈 喜一

 9月23日、トランプ大統領は記者会見で「選挙で負けた場合は負けを認めるのか?」との問いに、「まあ、何が起こるか見てみよう。わたしは前から郵便投票に文句を言ってきているが、郵便票はひどい。郵便票は除外すべきだ。そうすれば、たいへん平和的な、政権移行ではなく、政権の継続となるだろう」と答え、政権移行そのものの可能性を否定して見せた。

  トランプ陣営はあらゆる手段を動員

 この発言に合わせたように”The Atlantic”電子版に掲載された”The Election That Could Break America”(この選挙はアメリカを壊すだろう)という記事に注目が集まっている。11月3日の大統領選挙投票日から2021年1月20日の大統領就任式に至る79日の空位期間(Interregnum)に起こりうる、そしてトランプ陣営がとりうる法的な手段を最大限予想し、検証してみせた記事だ。
https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2020/11/what-if-trump-refuses-concede/616424/
 執筆者のBarton Gellmanは、最悪のケースは、トランプ大統領が選挙結果を受け入れないことではなく、選挙の結果が出ることそのものを、権力を使って阻止することだという。米国では、1896年の選挙で民主党のウィリアム・ブライアン候補が、第25代大統領となる共和党のウィリアム・マッキンリー候補に負けを認める電報を送って以来、負けた候補者が敗北を認める発言をすること(Concession)が、政権移行の暗黙のルールになっている。フロリダ州の集計をめぐってもつれにもつれた2000年の選挙でも、アル・ゴア候補(民主党)が12月12日に連邦最高裁の裁定を受け入れ、ようやく再集計をあきらめてブッシュ候補(共和党)に敗北の電話をかけ、決着した。

 トランプ陣営は、選挙当日と空位期間のシナリオをElection Day Operations(EDO)として詳細に検討しているという。記事が考察するそのいくつかのシナリオはこうだ。

  郵便票の不正、道路封鎖、選挙人の確定…

 1) 郵便投票の未集計票が多く残ったまま、開票日の夜の集計だけでトランプ陣営は早々に勝利宣言する (“Red mirage”)。トランプ陣営はそのまま、郵便票とその集計に不正があったと宣言し、それ以降の郵便票の集計を差し止める。そしてこの日から法廷闘争が始まる。

 2) あるいは、選挙当日、武装したトランプ支持者たちが「不正が起きている」というネット情報に乗じて投票所に集まり、反トランプデモとの間で暴力沙汰となり、有権者を投票所そのものに近づけなくする。大統領は非常事態を宣言し、武装した連邦職員が道路を閉鎖し、未開票の投票箱を証拠品として押収する。そして、特定の地域を閉鎖する。

 3) 投票用紙の集計の最終日は12月7日で、12月8日には各州合わせて538人の選挙人を確定しなければならない。各州の一般投票で多数票を獲得した候補が選挙人を獲得するのが慣例だが、米国憲法修正第二条では、最終的に投票結果が決まらない場合には議会が選挙人を決める権利を持つ。The Atlanticによれば、ペンシルバニア州の共和党員は、誰を選挙人に指名するかの話し合いをすでに進めているという。

 4) それでも混沌とし、両候補者がともに「当選者」と名乗り続ける場合は、上院議長(ペンス副大統領)が重要な役割を持つ。米国憲法修正第十二条は「上院議長が認証を開封し、票を数える」と書いているのだが、どの「票」を数えるのか、は書かれていない。共和党は、すべては上院議長たる副大統領の判断にまかされている、と解釈している。

  244年の歴史が問われる

 さてそれでもまだ……と、この記事はさらにさまざまな可能性を記述しているのだが、連邦最高裁判所と上下両院の役割、連邦軍の規定など、米国基本法のすべてが試され、通常は慣例に任されている法文の空白部分を、誰がどのような根拠で埋めていくのかを問う、まさに米国の244年の歴史が問われる大統領選挙になる。
 だからこそ、死亡したリベラル派のギンズバーグ最高裁判事の後任を、誰がいつ、どのようにして選ぶのかが政治闘争の場となり、大統領選挙の行方にとってきわめて重要なのだ。

(2020.09.24)

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