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地味? バイデン大統領

テレビ屋 関口 宏

 すったもんだしたものの、1月20日にはバイデン新大統領が誕生したアメリカ。その数日前、5人の死者が出た議事堂乱入事件が起きた時には、どうなるものかハラハラさせられましたが、州兵2万人以上を動員した警備体制の中、コロナ禍の影響もあったか、静かなくらい粛々と政権移譲が行われたように私には見えました。が同時に、何か物足りなさを感じたのは何故だったのでしょう。

 思い返せばこれまで何人もの大統領を見てきましたが、テレビ屋的感覚が強い私が、一番高揚感を感じたのはケネディ大統領が登場した時だったように思います。


 1961年、史上最年少、43歳で大統領に就任したケネディ氏。その若さがこれからのアメリカの象徴になるような気がしましたし、ルックスも申し分なく、対抗馬ニクソン氏を圧倒しているかに見えました。それが如実に現れたのがテレビによる討論会でした。テレビというものがまだ始まって間もない頃(多分、まだモノクロだったと思います)でしたから、テレビによる大統領候補の討論会自体に高い関心が寄せられたのですが、見た目からしてケネディ圧勝と私には思われました。しかしその後知ったことですが、実は、二人の選挙結果は僅差だったそうで、アメリカの複雑さがここにも現れていたのですが、政治経験豊富なニクソン氏に、若い新人ケネディ氏が逆転勝利したのは、矢張りテレビの力だったといわれています。
 ちなみにキュートな感じがしたジャクリーン・ケネディ夫人の人気も大きかったかもしれません。そのジャクリーン夫人と共に勝利パレードするケネディ大統領の晴れ姿に、この時ばかりはアメリカが一つになって拍手・歓声を送っていたように思います。


 そして1963年11月22日。テレビ屋として忘れられないこの日は、史上初、日米同時テレビ生中継(実験放送だったと思います)が予定されていて、開始早々アメリカから最初に飛び込んできた映像が、なんとケネディ暗殺を伝えるショッキングな大々々ニュースだったのです。これを知ってしばらくは茫然自失になった私がいましたが、アメリカという国の恐ろしさの一面を知り、アメリカという国の見方が変わったように思います。若いアメリカが世界をリードしてゆく希望が一瞬にして消え去り、ケネディはなぜ暗殺されたのか、諸説ありながらも未だに闇の中です。それもまたアメリカという国の複雑さなのでしょうか。

 そんなアメリカも、時には思い切った選択をすると思わせた大統領がいます。オバマ大統領です。この時私は、初の黒人大統領を選んだアメリカの人々に拍手を送りました。世界の民主主義をリードすると言われるこのアメリカの選択。
アメリカの民主主義がさらに成長するものと期待しました。就任式もそうした期待に応えるかのような温かな華やかさがあったように記憶しています。

 でも残念なことに、頑張っていた1期目を終え、2期目に入った頃から存在感に陰りが見え始めたように思います。オバマ大統領の功績は何だったのか、急には私も答えられないくらいアメリカがぼんやりしてしまいました。

 それもあってのことでしょうか。オバマ氏とは打って変わったような強烈な個性を持ったトランプ氏の登場に、アメリカ中が騒然となりました。アメリカばかりではありません。世界中にトランプ旋風が吹きまくりました。
タレントであれば面白い人なのでしょうが、一国のリーダーとしては危なっかしさが常につきまとう大統領だったというのが、私の印象です。その危なっかしさは1期4年の最後まで、難問を散らかしっ放しにして、ホワイトハウスを去りました。

 そうした余韻が強く残されたからでしょうか、バイデン新政権が私には地味に見えてしまうのかもしれません。それが冒頭で申し上げた物足りなさにつながっているように思われます。


 しかし新政権もよく見れば、アメリカ初の女性副大統領・ハリス氏が就任。他にも多くの女性閣僚が登用されました。ひょっとするとアメリカは世界に先駆けて何か大きな畝り(うねり)を起こすかもしれません。

 考えてみれば、戦争々々に明け暮れた中世から20世紀まで、世界はほとんど「男性論理」で動いてきたように思います。それが最近「ジェンダーフリー」(男女差別をなくす)運動が世界的な広がりを見せ、いよいよ女性の出番が来ているのかもしれないのです。そこにバイデン政権が放った「女性論理」重視のアメリカ。これが世界的な潮流となりうるのか、一見地味に見えるバイデン政権の舵取りを見つめて行きたいと思っています。

 テレビ屋  関口 宏

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