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2020年4月号

政治化する新型コロナウィルス ―― トランプ非難のCM

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 大統領選挙の年でありながら、新型コロナウィルスの猛威によって、民主党のバイデン、サンダース両候補も集会は開けず、予備選も延期になり、新聞やテレビからも大統領選挙の話題は消えた。その中でトランプ大統領は新型コロナウィルスをめぐって毎日のようにホワイトハウスでタスクフォースチームと記者会見を開いていて、発言をめぐってはつねに物議をかもしてはいるものの、存在感を誇示していることは確かだ。

 「スィング」・ステイツ」の30秒CM

 民主党候補者のテレビCMも減ったが、3月24日から4月6日まで、フロリダ、ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンの4州で放送されたトランプ大統領を批判するネガティブCMが話題を呼んでいる。この4州は共和、民主両党の支持率が拮抗し、大統領選挙の行方を左右する「スウィング・ステイツ」で、有権者の動きには両党とも神経をとがらせている。


トランプ批判のCM

 このCMは、Priorities USA Actionという民主党支持のスーパーPAC(政治行動委員会)が制作したもので、暗い画面の中にトランプ大統領の顔が浮かび、「コロナウィルスは新たなデッチ上げだ」「われわれは事態を完全にコントロールしている」「ある日、奇跡のように消えてなくなる」「感染者は15人いるが、2,3日すればゼロにできる」「われわれは感染者数を最低限に抑えて、すばらしい仕事をしている」というトランプ大統領の発言が断片的に流れる。それに合わせるように米国内の感染者数を示すグラフが、急上昇していき、最後に「いや、わたしは責任など取らないよ」という大統領の言葉をさしはさむ。さらにそのあと、「アメリカには信頼できる指導者が必要なのです」という意見テロップが出て終わる30秒のスポットCMだ。

 トランプ陣営、放送中止の書簡

 トランプ陣営は、このCMを流したテレビ各局に、即座にCMの放送中止を求める書簡を送り、法的対抗措置も辞さないとした。ことにトランプ側が問題にしているのが、「このウィルスは新たなデッチ上げだ」と語っている冒頭部分で、「デッチ上げ」という言葉は別の発言の中からとられて編集されたもので、「虚偽」だと訴え、もし放映を中止しない場合は放送免許を取りあげる、と脅しをかけた。しかしながら、今後の終盤の選挙戦のCM戦略では、トランプ陣営も、この重要なスイング・ステイツのテレビ各局へCMを投下しないわけにもいかず、対応に苦慮しているのが現状だ。新型コロナウィルスへの対応次第では、再選の行方が大きく左右されるため、トランプ陣営は、この新型コロナウィルスを取り上げたCMにきわめてナーバスになっているようだ。
 ちなみに、米国の放送法では、候補者個人のCMの場合は、対立候補全員にも同じ尺(放送時間)を与えなければならないという公平性原則はあるが、外部団体であるスーパーPACの政治的なCMには一切規制がないことから、対抗候補を貶めるCM合戦に巨額の資金が流れるなど、大きな問題となっている。

※CMはこちら

武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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