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アメリカ議会が包囲された日

元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈 喜一

 1月6日は、各州で決まった選挙人の数を両院議員の会議で数え上げ、上院議長が「次期大統領」を宣言する日になるはずだった。通常ならば、投票から始まった大統領選挙の長いプロセスに、最後の「点」を打つ儀式だ。一方、トランプ大統領から圧力をかけられたペンス副大統領が、憲法の規定通り淡々と議事を進行し、「次期大統領はジョー・バイデン」と宣言するのか、あるいは、忠誠心を最後まで発揮して選挙結果をひっくり返すのか、に関心が集まっていた。ペンスは「憲法に従う行動をとる」、というメモを残して決然と議会に向かった。

  大統領の呼びかけで集まった

 しかし、選挙人数の読み上げの際、共和党議員がアリゾナ州の選挙結果に異議を唱えた頃、議事堂の外では、トランプ大統領の呼びかけに応えて集まった数千人のトランプ支持者が議事堂に押しかけ、群衆が議事堂を取り囲み、一部は議事堂の中に侵入した。議会警察はなすすべもなく侵入を許し、両院議員は議場から避難した。
 選挙人の確認議事は中止された。


議事堂に押しかけるトランプ支持者


議長席に座る侵入者


議場内で侵入者に銃を構えるSP


 テレビ各局は中継で議事堂の混乱の様子を伝えた。そしてどの局のMCも同じように付け加えた。「アメリカ合衆国の議会で、まさかこんなことが起きるとは想像もできない」。
――こんなことが起きうることは、大統領選挙の前から想像できた。そのうえ、振り返れば、バイデンに負けてからのトランプ大統領とその側近の発言は、この日のこの行動のために組み立てられていたではないか。
 もし、「想像もできなかった」のなら、それは「民主主義の米国」を例外的な特別な国として見ていたのだろう。

  「戒厳令を敷け」とトランプ側近

 トランプ自身が過激な武装集団に「スタンバイ」といい、選挙の敗北を認めた国防長官と司法長官を更迭し、選挙結果はでっち上げで本当は地滑り的勝利を収めているのだと繰り返し語り、側近が「戒厳令を敷け」と呼びかけ、年明けには念を押すように大統領がツイッターで「1月6日にワシントンに集まれ」と呼びかけ、その6日の日には支持者の集会に登壇して「議事堂に行こう。ワイルドになれ」と呼びかければ、それは行動を煽動する以外の何ものでもないだろう。
 「アメリカ合衆国」は民主主義の老舗なのかもしれないが、その国のDNAに「民主主義」という染色体が組み込まれているわけではない。民主主義は、人びとの関係を平らに作り、日常を民主的な関係の中で作り、民主的な社会を作っていこうという意思と不断の努力がなければ、すぐに「ただの言葉」に堕してしまう。

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