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トランプは自分を恩赦できるか

元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈 喜一

 11月の第四木曜日は感謝祭(Thanksgiving Day)だ。今年は11月26日にあたる。この日は日本のお正月のようなもので、家族や親族、友人が遠方から集まって、みんなで食卓を囲む。たぶん、米国でいちばん大切な家族の行事だ。
 もともと感謝祭は英国から1620年に新大陸のプリマスに移住してきた最初の植民者ピルグリム・ファザーズ(Pilgrim fathers)が厳しい冬に多くの犠牲者を出しながら、ネイティブ・アメリカンたちの教えを受けて翌年の秋の収穫を迎え、その収穫を祝って神に感謝をささげ、先住民を招いて宴を催したのが始まりといわれている。移民の国アメリカは今年、ピルグリム・ファザ-ズの植民からちょうど400年を迎える。

  東京ローズやニクソンにも恩赦

 感謝祭には詰め物をした七面鳥を家族や友人と食べるのだが、感謝祭の朝、ホワイトハウスでは大統領が二羽の七面鳥に恩赦を与えるという行事が毎年行われている。
 米国大統領は、七面鳥だけではなく、任期の終盤に大規模な恩赦を実行するのが恒例になっている。その権限はほぼ無限大で、あらゆる範疇の刑罰に対して恩赦が可能なうえ、司法による見直しは行われない。議会もそれを阻む権限はない。
 1977年にはフォード大統領が、戦時中、日本から対米宣伝放送をおこない、国家反逆罪で禁固10年を受けて服役し、市民権を剥奪されていた日系米国人「東京ローズ」に恩赦を与え、市民権を回復させた。

 これは任期終盤ではないけれど、同じくフォード大統領は1974年9月にウォーターゲート事件で訴追直前のニクソン前大統領に恩赦を与え、罪に問われる可能性を無くした。

  ロシア疑惑、違法送金、裏口講座…

 さて、トランプ大統領はこれまでも自分の友人や利害関係者に刑の減免をおこなってきたため、任期最後の恩赦では家族から側近にいたる極悪非道な人物まで、自分の得になると思った者には恩赦を与えるのではないか、と憶測されている。
 ただ、ほとんど無限大の権限のなかでも、唯一与えることができないのが、自分自身への恩赦である。しかし、トランプ大統領は2018年6月、ツイッターに「多くの法学者が言うように、わたしは自分に恩赦を与える絶対的権利を有している。でも何も悪いことをしていないのに、どうして恩赦などするだろうか」と投稿(下の英文)し批判を招いた。司法省は1974年に「大統領は自らを恩赦できない」と明確に規定しているからだ。


  任期前に辞職すれば恩赦の道

 ロシア疑惑から大統領の職権を利用した蓄財、外国銀行への違法な送金と裏口座の存在まで、叩けば埃の出そうなトランプ大統領としては、訴追から逃れるには、大統領職にとどまり続けるか、自分に恩赦を与えたうえでホワイトハウスを去るしかない。
 だが、恩赦の可能性は一つだけ残っている。
 任期前に大統領職を辞し、ペンス副大統領が残りの短い任期を第46代大統領職として継いだ後で、ペンス大統領によって恩赦を宣言してもらう方法だ。大統領を辞任したのはこれまでにニクソンしかいないが、永遠に連邦検察局の追及を逃れるためには、あえて任期前に職を辞すしかない。
 いまだに選挙での負けさえも認めていないトランプ大統領だが、この4年間、常識破れの政権運営を続けてきた土壇場の土壇場で、どんな手をくりだすのか、楽しみでもある。
(2020.11.14)

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