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2020年9月号

米大統領選挙、ラストスパートへ

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 11月3日に投票を迎える米国大統領選挙は、民主党、共和党の全国大会を終え、選挙戦のラストスパートに入った。両党の全国大会のテレビ視聴数は、2日目を除いて、リモートを基本とした民主党が、趣向を凝らしたライブイベントの共和党を上回った。

 それぞれの大統領候補が指名受諾演説をおこなう4日目はもっとも注目されるが、今年は民主党バイデン候補の2460万視聴に対して、共和党トランプ候補は2380万視聴と、民主党側に軍配が上がった。共和党の4日目は、トランプ旋風が吹き荒れた前回2016年よりも26%下落したが、両党とも4日間すべて2016年の視聴数を下回った。

  得票数と勝敗が逆転は過去2回

 あらためて大統領選挙の注目点を整理してみよう。
 2016年の大統領選挙では民主党ヒラリー・クリントン候補が6585万票、共和党のドナルド・トランプ候補が6298万票を獲得し、総得票数ではクリントン候補が約280万票上回ったにもかかわらず、獲得した「選挙人」の数ではクリントン候補の232人に対し、トランプ候補が306人と74人上回り、第45代米国大統領に選ばれた。
 メイン州とネブラスカ州を除くほとんどの州では、1票でも多くの票を獲得した候補がその州の選挙人全員を獲得できる「勝者総取り」のためだ。この「選挙人」制度には批判もあるが、米国大統領選挙史上、ほとんどの大統領選挙では選挙人の数による勝敗と、全国得票数による勝敗が一致してきた。一致しなかったのは2000年の選挙で、得票数で50万票上回った民主党のアル・ゴア候補が民主党のジョージ・W・ブッシュ候補にフロリダ州でわずか540票差で敗れた時と、前回トランプ候補が大統領となった選挙の2回だ。
 前回、トランプ候補はミシガン州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州の3州を僅差で制し、46人の選挙人を獲得したことが勝利につながった。
 クリントン候補との得票率の差は、ミシガン州で0.2ポイント(1万704票)、ペンシルバニア州で0.7ポイント(4万6765票)、ウィスコンシン州で0.8%(2万2177票)だ。2016年の大統領選挙では、結局この7万9646票が勝負の行方を決めたことになる。2016年の全米での有権者数は約2億4500万人だったが、実際に投票したのは1億4000万人弱だから、全投票数の約0.05%で勝利が左右したと言える。

  「有権者登録」で差別的制限

 米国の選挙では、18歳以上の国民に投票権があるが、有権者は事前に「有権者登録」をしなければならない。以前はこの有権者登録の際に人種による差別的な制限が行われていて、2013年に最高裁がそうした差別的制限を無効とした後も、共和党が多数を占める州議会では、「不正投票を防ぐ」という名目で、有権者登録を厳格化している。また、投票所を黒人居住区から遠くに置きなおしたり、当日の本人確認に自動車免許証の提出を求めたりと、なるべく黒人、ラティーノ層の投票への意欲をそぎ、投票させないような術策を駆使している。
 また、焦点となっている郵便投票は、2016年では全投票の21%で、2800万票を上回るが、トランプ大統領は「郵便投票は不正の温床」だとして、郵便投票の実質的な骨抜きを目論むなど、なりふり構わぬ作戦に出ている。
 投票日が近付くにつれ、メディア各社は頻繁に支持率調査を行うが、2016年には「隠れトランプ」などの実態や窮乏化する地方の零落した旧中間層の不満の在り処を見抜けず、予想は大きく外れた。今回の選挙でも事前の世論調査、支持率調査の数字は当日の投票行動にとって、あまり意味を持たないと言えそうだ。

  岩盤支持が固いトランプ大統領

 トランプ大統領の岩盤支持層は固く、共和党支持者の9割以上がトランプに投票することを決めていると言われている。トランプ支持層は「有権者登録」を確実に行い、当日、悪天候でも投票所に足を運ぶ人びとだが、民主党支持層には、そこまでの「熱量」は見受けられない。民主党がさかんに若年層に有権者登録と、投票所へ足を運ぶことを訴えかけているのはそのためだ、世論調査では1000人につき、2.97%の誤差が出るとも言われており、一桁台のリードは誤差の範囲にすぎないのだ。

 分断された米国では、すでに多くの州が「レッド・ステート」(共和党多数)か「ブルー・ステート」(民主党多数)か、選挙前から明確になっている。勝敗のカギを握るスウィング・ステーツ(下の地図の白地がスウィング・ステーツ)の約100人の選挙人の行方だけが注目点だ。
 トランプ陣営はすでに、スウィング・ステート内の郡単位に至るまで、動静の把握を進めており、僅差で負けた場合には、郵便投票の不正を言い立てて、連邦裁判所に選挙の無効を求める戦略だ。逆に言えばバイデン候補は、圧倒的な数の勝利を収めない限り、トランプ候補から「敗北宣言」を引き出すことはできないだろう。
(2020.08.29)

武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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