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暴力と憎悪 「Proud Boys, stand by!」

元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈 喜一

 小学校の時、学級会の進め方を教わった。
「人の話を聞くこと」「人の話を途中で遮らないこと」「要点をまとめてしゃべること」「同じことを何度もしつこく繰り返さないこと」「他人(家族)の悪口を言わないこと」「相手に敬意をもって接すること」「進行役の指示に従うこと」――これらがすべて守られていないのが9月29日に行われた第一回大統領候補討論会だった。この四年間の米国の政治と社会はずっとこうだったので、米国社会のあるがままの姿が見えた感じだ。
 常軌を逸した議論には驚かなかったが、混乱が予想される大統領選挙後の動きに危惧を抱かせたのは、「白人至上主義」との関わりをモデレーターから問われ、「じゃあ、名前を挙げてみろ」というトランプに対して、バイデンが「プラウド・ボーイズProud Boys」の名を挙げた時、トランプが言い放った一言だ。
“Proud Boys, stand back and stand by!”(プラウド・ボーイズよ、一歩引いて待機していろ!)
https://thehill.com/homenews/campaign/518898-merriam-webster-shares-definitions-of-stand-back-and-stand-by-after-trump

  「了解!行動に備えるぞ」

 さっそく「プライド・ボーイズ」は大統領候補討論会で自分たちの組織の名が上がったことを歓迎するTweetを発し、早くも“Stand by”のロゴ入りTシャツを作った。



そしてトランプに宛ててメッセージを送った。「了解!身を屈め、行動に備えます」。
 “Proud Boys”は2016年の大統領選挙前に英国とカナダの右翼活動家によって組織され、FBIも「極右グループ」に分類している団体だ。“Proud Boys”は男性中心の伝統的価値観に基づき、「白人はジエノサイド(集団虐殺)に晒されている」という陰謀論を信じて移民政策に反対し、銃を保有する権利と反フェミニズムを前面に出す「愛国者」だと自己規定していて、ヨーロッパの極右とも連携している。”Make America Great Again”と書かれた真っ赤な帽子を被り、黒地に黄色のポロシャツがトレードマークだ(最近、メーカーはこのポロシャツの製造を中止した)。

  暴力へのゴーサイン

 2017年8月のチャーロッツビルでの騒乱では、KKK(クー・クラックス・クラン)やネオナチを糾合する役割を果たし、去年はAntifaの活動家に暴力を振るったとして2人が逮捕された他、最近では「ブラック・ライヴズ・マター」のデモに対して暴力行為に出ている。先週もオレゴン州ポートランドで続く人種差別への抗議行動に暴力を加えたばかりだ。
 極右団体のソーシャルメディアと化した投稿サイト”Parler”では「これこそが俺たちの大統領!」「スタンド・バイ! OK」といった投稿が相次いでいる。
 “Proud Boys”や彼らと連携する極右組織はトランプの言葉を「暴力行為へのゴーサイン」と捉えている。意見を異にする者や気に食わない者への憎悪は、ルールを度外視しても前面に出していいことを見せつけた討論会の後に待っているものは、むき出しの暴力だけだ。

(2020.10.05)

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