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2020年11月号

トランプ、Foxに当打ち取り消し迫る

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 11月3日の夜、フロリダ州を接戦の末に制したホワイトハウスは勝利の予感に沸き立っていた。その熱気に水をさしたのは、ほかならぬFox Newsの速報だった。午後11時20分、Foxはまだ73%しか開票が進んでいないアリゾナ州でバイデン候補に当選確実を打った。どこも後を追うメディアがなかったため、一瞬フライングの誤報かと思われた。『ニューヨークタイムズ』によれば、それを知ったトランプ大統領は烈火のごとく怒り、知事や選挙責任者に電話をかけまくったという。
https://www.nytimes.com/2020/11/04/us/politics/trump-fox-news-arizona.html

  「逆転の見込み無し」とFox拒否

 トランプ大統領の政治顧問ジェイソン・ミラーはFox Newsに電話をかけ、バイデン当確の取り消しを迫った。Fox Newsのベテラン「当打ち」デスク、アーロン・ミーシュキンはミラーからの申し出をはねのけたばかりでなく、みずから番組で「現在はバイデン53%、トランプ46%だが、申し訳ないが、トランプ大統領はこの7ポイントの差を逆転できる見込みはない」とその根拠を語って「当確」への自信を見せた。AP通信がFoxに続いてアリゾナ州でのバイデン当確を打ったのは、その2時間ほど後だった。このFoxのアリゾナでの当打ちはおそるべき早さで、まだ期日前票はほとんど開いていなかったし、2日近く経った5日午後になってもCNNやMSNBCもアリゾナ州の当確は打っていない。

 ミラーにつづいて、トランプ大統領の娘婿でホワイトハウス上級顧問を務めるジャレド・クシュナーも、Foxの創業者であるルパート・マードックCEOに電話をかけた。クシュナーは、「ジェイムズ・ベイカーのような男」を探していた。レーガン大統領の首席補佐官だったベーカーは2000年のブッシュvsゴアのフロリダ州での再集計の際、法廷闘争を率いて、ブッシュを勝利に導いた名参謀だ。しかし、この電話も不首尾に終わったようだ。

  いら立つ大統領、「勝利宣言」

 トランプ大統領は3日夜から4日にかけて、ずっとFox Newsの開票特番を見ていたが、苛立った大統領は午前2時半、「われわれは勝利した」という勝利宣言を行い、投票日以降の郵便票は不正で集計をやめるべきだ、と言い放った。明らかにホワイトハウスの空気を一気に換えたのはFox Newsの当確情報だった。これ以後、トランプ陣営は集計の中止と、郵便票の無効をめぐって法廷闘争に突き進む。
 朝方、トランプ大統領の選挙運動スタッフの一人は、複数の州で法廷闘争を同時におこなう戦略は「イチかバチかのロングパスを出すか、帽子からウサギを出すようなものだ」と自嘲気味に語ったという。

「逆転できない」と語るミーシュキン氏などが登場するニュース映像



(2020.11.05)

武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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