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郵便投票は届くのか?

元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈 喜一

 新型コロナウイルスの勢いが一向に衰えない今年の米国の大統領選挙では、郵便投票が勝敗のカギを握りそうだ。いま問題となっているのは、郵便票が集計期日までに届かなかったり、そもそも郵送時に不正が行われることはないのか、という懸念だ。

 現在米国内の有権者のうち、投票所に足を運んで投票することを義務としているのは6州だけで、残りの州はなんらかのかたちで郵便による不在者投票や郵便投票が可能で、全有権者の83%にあたる1億9500万人が郵便投票を行うことができる。
 トランプ大統領はさかんに、「郵便投票は不正の温床だ」と述べているが、2016年と2018年の中間選挙では、あわせて1460万票の郵便投票のうち、明らかに不正と思われるのはわずか372票だけだったという(Washington Post, 8月20日)。

  州により異なる郵便投票の方式

投票方法は各州が決めるので、郵便投票のやり方にも大きな違いがある。

全州の郵便投票の割合

 2018年の中間選挙では、郵便投票がほぼ100%だったオレゴン州や9割だったユタ州、コロラド州などがある一方、多くの州では2割にも届かない。
 問題は、無効票となった郵便票の数で、今年の予備選では23の州で53万4000票が集計期限までに配達が間に合わず無効票となった(Washington Post, 8月23日)。
 2016年の選挙では、トランプ候補がミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシンの3州で、クリントン候補にわずか8万票上回って選挙人を獲得したが、この3州での今年の予備選での無効郵便票は60480票だった。この数字が選挙の結果を左右しかねない深刻なものであることがわかるだろう。

  20州が郵便投票枠を拡大

 投票者は郵便用紙にサインと日付を書きこまなければならないが、そのサインは、有権者登録の時のものと同じであることが求められ、異なったサインだと判明した場合は、選挙事務所が投票者に連絡、確認し、正しいサインを改めて求めるという、およそIT国家らしからぬ煩雑な作業が必要となる。また州によっては郵便票の返信封筒が少し破れていただけでも無効とされるなど、州による判断基準も大きく異なる。
 新型コロナウイルスの感染をより深刻に受け止めている民主党支持者の多くが郵便投票を採用すると思われるため、民主党の選挙対策チームは郵便票が無効とされる理由をなるべくすくなくするよう申し出ているが、その基準は州ごとに決められるため、共和党が優勢の州では、郵便投票の基準も黒人やラテン系住民に不利になると言われている(以下8月9日のNBCニュース、
https://www.nbcnews.com/politics/2020-election/white-person-black-person-vote-mail-same-state-whose-ballot-n1234126

 郵便投票の正しいやり方をPRするNPO団体などもあらわれているが、今年は新型ウイルスの影響で20州が郵便投票の枠を拡大したため、多くの有権者が初めて郵便で投票することになると見られていて、集配や開票がスムーズに行われるのか、無効票の扱いが公正に行われるのかなど、選挙まで2か月を切ったこの時点でも、数々の不安を残している。

郵便投票については、
Salon
https://www.salon.com/2020/09/08/more-than-550000-mail-ballots-rejected-so-far-heres-how-to-make-sure-your-vote-gets-counted/
NPR
https://www.npr.org/2020/08/22/904693468/more-than-550-000-primary-absentee-ballots-rejected-in-2020-far-outpacing-2016
Washington Post
https://www.washingtonpost.com/graphics/2020/politics/vote-by-mail-states/?itid=ap_katerabinowitz&itid=lk_inline_manual_8
など、多くの新聞、ニュースサイトが特集している。

(2020.09.08)

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