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ビッグ・データが勝敗を決する

元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈 喜一

 2012年、ミット・ロムニー候補が大差でオバマ大統領の再選を許した共和党は、選挙での敗因を分析して”Growth and Opportunity Project”(成長とチャンス計画)という100ページの冊子を作成した。この冊子をまとめたプリーバス共和党全国委員長は、後にトランプ政権の首席補佐官となるが、選挙の敗因について、「われわれのメッセージは弱かった。われわれはデータでもデジタルでも後れをとっていた」と分析している。


成長とチャンス計画

 データが選挙の重点となったのは2004年のブッシュ再選の選挙からだが、当時はまだ個人データの活用は限定的だった。しかし2012年の選挙では、オバマ陣営は、ボランティアやFacebookを総動員して、投票先を決めかねている1500万人の有権者にピンポイントで攻勢をかけ、勝利をつかんだと言われている。
 スマートフォンの普及とSNSの発達、細分化され蓄積された個人データの売買が進んだことに伴い、2016年の大統領選挙以降は、民間の非営利団体が行う巨額のファンド・レイジング(資金調達)も、選挙広告もデータが主役となっている。

 核兵器でもミサイルでもない「データ」戦争
 ブッシュ政権で戦略を担ったカール・ローヴ元上級顧問は去年11月20日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に「米国の将来に深い影響を与える武器競争が行われている。それは次世代の核兵器でもなく超音速ミサイルでもない。最高の政治的データをどちらが取るかという、共和党と民主党の戦いだ」と書き、熾烈なデータ戦争に触れている。

 かつては民主・共和両党とも、選挙広告ではテレビCMへの支出が主だったが、共和党全国委員会は、収集した有権者の個人データを、共和党系の「Data Trust」という組織に一元化して管理分析し、デジタルなターゲット広告活動を行うようになった。


「Data Trust」のロゴ

 Data Trustには、有権者ファイルやデータ会社から集めた、全米50州2億6000万人分のデータが管理されている。組織は共和党の外部にあるため、保有するデータを利用したファンド・レイジングにも法的規制はない。しかし、すでに独自のデータ収集団体i360を立ち上げファンド・レイジングをおこなっていたコーク兄弟(巨大な多国籍複合企業の創業家兄弟)などからは、共和党のデータをData Trustに一元化することに強い反発が出たが、2016年の予備選でトランプ候補が抜け出して以降は、Data Trustへの一元化が進み、圧倒的な支配力を持つデータ管理団体となっている。カール・ローヴは「Data Trustはドナルド・トランプが2016年の選挙を勝てた大きな理由のひとつだ」と述べている。
 一方の民主党は、データの収集と分析の一元管理については大幅に遅れているようだ。

 大統領への忠誠心で格付け
 また共和党は、小口の献金を集める民主党のActBlueに対抗して、WinRedという集金マシーンを2019年夏に設立した。WinRedの創設を進めたのは、トランプ大統領の娘婿ジャレド・クシュナーと、今年の選挙キャンペーン責任者を務めるブラッド・パースケイルだ。皮肉なことに、かつて共和党全国委員会やワシントンのエスタブリッシュメントに背を向けて当選したトランプ大統領が、共和党に新しい息吹を吹き込み、共和党議員の票と資金を支えているのだ。

 かつては複数あった共和党のデータ管理団体や、ファンド・レイジング組織が、トランプ大統領の元でData TrustとWinRedに一元化され強化されたいま、共和党員の議会選挙運動への党の支出は、トランプ大統領への忠誠心によって格付けされるようになってきているようだ。


(「米国メディア事情」は随時掲載いたします)

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