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BLACK LIVES MATTER

テレビ屋 関口 宏

 全米OPテニスの大坂なおみ選手の優勝には、大きな拍手とともに、心の握り拳に力が入る感覚を覚えました。テニスで世界一になる快挙は勿論のこと、そこで彼女が訴えた「BLACK LIVES MATTER」(黒人の命も大切だ・・・日本語ではそう訳すようになりましたが、どこか複雑さを感じます)の運動を正々堂々、公にアピールした姿に打たれたのです。


 アメリカにおける人種差別の問題は南北戦争が象徴するように、我々の想像を超えた根深いところで綿々と続いているのでしょう。しかし事「差別」となると、アメリカだけの問題ではありません。「ひと住むところに差別あり」とも言われるように、人間と差別の問題は人類の究極のテーマとして、我々一人ひとりに突きつけられているように思います。

 我々は、目でものを見て自分の行動を決める事を繰り返しながら生きています。その見たものを瞬時のうちに区別し判断して、自分の行動を決めて行くのでしょう。そしてそこに好き嫌い、損得等々の感情が湧き上がり、その奥に潜む差別の感情を引きずり出してしまう事もあるようです。その根底に流れるものが「比較」の物差し。この「比較」の先には優劣、勝ち負けの価値観がついてまわることになるのですが、この「比較」の中で、自分の存在を確かめたくなる傾きを誰もが抱いているように思われます。

 この「差別」の問題は今や人種に限らず、宗教、文化、男女、そしてLGBT(性的マイノリティー)が世界的な広がりを見せています。これは人類が通らねばならない道をやっと歩き始めた事を意味しているのでしょうか。

 またまた古い話になって恐縮なのですが、1968年に発生した「三億円事件」。
(東京・府中市で起こった現金強奪事件。当時の3億円の金額に驚き、その計画性に舌を巻いた事件でしたが、迷宮入りしてしまいました。)
翌年、この話をテーマに芝居をやろうということになり、親友、故・松山英太郎君と「いもの群」という劇団を立ち上げ、台本作りに入りました。そして男五人、女一人の芝居が出来上がり、キャスティングに入りました。男は仲間だった勝呂誉君、新克利君、松山省二君を加えてOK。難航したのがたった一人の女優さん。小さな貧乏劇団ゆえ、売れっ子さんが来てくれるわけもなく、安酒場で英太郎君と腕組みしながら途方にくれていたところ、不思議な人が現れました。それが当時、性転換で話題になっていたカルーセル麻紀君でした。英太郎君も私も目がキラリ。窮すれば通ず、「この手があったか」と、一杯奢るうちに麻紀君も快く引き受けてくれて、彼女のデビュー作になりました。


 が、初日の舞台裏。小さな小屋のため楽屋などという気の利いたものもなく、それぞれが適当なところで衣装に着替え始めた時、野太い声が響いて来ました。
「俺だって女だ!」、「俺だって女だ!」。
一瞬、何のことだかわからず皆で顔を見つめ合いましたが、「あっ、そうか」と気づいて、みんなで舞台裏にある色々なものを持ち寄り、麻紀君の囲いを作りました。それで麻紀君のご機嫌も治り、無事初日の舞台を終えることができました。これが若き日、私がLGBT問題に初めて触れた思い出です。

 「俺だって女だ!」「BLACK LIVES MATTER」。響きが似ているような気がしたのでしょうか、古い話を思い出しました。

 テレビ屋  関口 宏

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