ゲスト様

2020年1月号

オリンピックイヤー

テレビ屋 関口 宏

 2020年の幕開け。世界中、昨年から積み残した課題が山積状態の中、今年を占うことはなかなか難しいことではありますが、我が日本にとっては、矢張り目の前に迫ったオリンピック・パラリンピックの無事成功を祈るということになるのでしょうか。でもまだ高揚感はそれほどでもありません。新緑と薫風が漂い始めるゴールデンウィークあたりから徐々に高まって行くものと思われます。
 
 しかし、56年前・1964年の東京オリンピックを知る私にとりましては、今回のオリンピックは、どこか何かが違うのです。
 
 1964年。私はまだ学生でした。1945年の敗戦の廃墟の中から6年後、1951年のサンフランシスコ講和条約を経て、どうにか独立国として立ち直り始めた日本。その姿を世界に知って欲しいという願いが、戦後19年目に実現した東京オリンピックに込められていたように思います。
 

写真提供:東京都


 東海道新幹線も首都高速道路もオリンピックに向けて工事が急がれました。でも東京のあちこちにはまだ貧しさが残っていました。ゴミ・下水の問題も完璧ではありませんでした。主要道路から見えるスラム街には板塀を立てて目隠しをしたところもあります。それでも胸を張って外国のお客様をお迎えしようという気概が感じられました。「おもてなし」と言わずとも、日本全体の空気になっていたように思います。その根底には、敗戦国のイメージを払拭したいという強い想いがあって、慎み深さを伴いながら淡々と、日本人全体でオリンピックを成功に導いていったような気がするのです。
 
 確かに時代は変わりました。56年前の日本ではありません。敗戦の痛手も遠い昔、外国人コンプレックスも薄らぎました。そしてスポーツに対する考え方・楽しみ方も変わりました。56年前にはアマチュア精神なるものが尊ばれていたのですが、ほとんどのスポーツがプロ化して、アマチュアという言葉すら死語になりつつあります。アスリートの日頃のご苦労を思えばそれはそれで認めるべきなのかもしれません。
 
 しかしオリンピックとはそもそも何のためのものなのかが分からなくなってきてはいないでしょうか。
 
 世界のスポーツの祭典。スポーツによって国際交流を深め、世界の平和に寄与することが求められているはずですが、最近のオリンピックは日本に限らず、主催国(本当の主催者は都市)の経済活性化の効用に偏りすぎているように見えます。勿論各競技のスムーズな運営のために必要なインフラ整備もあるでしょう。でも聞こえてくるのは国際交流や平和よりも、お金・経済話が圧倒的。特に今回の東京オリンピックには、3・11東北大震災の復興も目的に入っているのですが、その話もあまり聞こえてきません。お題目だけで終わらせてしまってはいけないと心配しています。
 
Abebe Bikila 1964 Olympics
 
 56年前の話に戻りますが、「あっ!靴を履いてる!」が話題になりました。
エチオピアのアベベ・ビキラというマラソンの男子選手が、その前のローマ大会で、裸足で走って優勝。世界が「裸足のアベベ!」と驚いたのですが、貧しさから靴が買えなかったのです。そのアベベが東京に来るというので期待感が高まったのですが、そのアベベが靴を履いていた。当たり前といえば当たり前。もう世界のアベベになっていたのですから。
 ちなみに靴を履いたアベベは見事優勝。東京でオリンピック2連覇を成し遂げたのです。
 
 「裸足のアベベが見たかった」という声もありましたが、戦後の貧しさを経験してきたばかりの日本人だったからでしょうか、この話、微笑ましく受け止められました。56年前とは変わってしまった現在ですが、あの当時の慎み深さのようなものが、少しでも残ってくれていることを祈ります。
 
テレビ屋  関口 宏

関口 宏

テレビ屋

3代にわたる江戸っ子(祖父は神田の火消し、父は映画俳優、佐野周二)。
昭和38年NET(現テレビ朝日)シオノギ劇場「お嬢さんカンパイ」でデビュー。フジテレビの「スター千一夜」の司会を務めた後、TBS「クイズ100人に聞きました」「わくわく動物ランド」「関口宏の東京フレンドパーク2」「サンデーモーニング」、読売テレビ「ワンダーゾーン」「どっちの料理ショー」、日本テレビ「知ってるつもり!?」など幅広いジャンルの番組で司会者として活躍。
 一方で、昭和52年には小柳ルミ子「星の砂」の作詞で日本作詞大賞作品賞を受賞。2012年に文藝春秋社から「テレビ屋独白」(文藝春秋)出版。

現在出演中番組
TBS:「サンデーモーニング」(日曜8:00~9:54)
BS−TBS:「関口宏のもう一度!近現代史」(土曜12:00〜12:54)

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