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私の中のアメリカ

テレビ屋 関口 宏

 11月。世界が注目する中、アメリカの大統領が選ばれる月になりました。
が、このコラムをお読みいただく時点で、果たして誰が大統領になったのか、はっきりしているでしょうか。10月末の現時点では相変わらず混沌としていて、コロナ禍での郵便投票や、不正行為による不確定要素が取り沙汰されている状況。11月中には、はっきりしないのではと言われています。


REUTERS / POOL - stock.adobe.com

 それにしましても今回の選挙戦。肝心の政策論争をほったらかして、互いの罵り合い、足の引っ張り合いに、正直うんざりしてしまいました。「アメリカも落ちたなぁ」と何回呟いたことか。

 私が生きてきた77年は、第2次大戦後の75年とほぼダブります。以来今日まで、アメリカが常に私の中で蠢いてきました。
 敗戦後の焼け跡の中で知ったジープ、MP、チョコレート・・・・・。「この人たちは何者なのか」。家の中では三度の食事にすら事欠く苦労を薄々感じていた幼い日々。そこに現れ、溢れんばかりの豊かさを誇るかのような進駐軍。アメリカ人は別世界の人に見えましたし、理屈も何もわからず、アメリカ人を羨望の眼差しで仰ぎ見て、私の中にアメリカコンプレックスが植え込まれてしまったと思われます。

 やがて日本でもテレビ放送が始まり、そこで見たアメリカのホームドラマがそのコンプレックスを深めます。「パパ大好き」「うちのママは世界一」等々が描くアメリカの標準的な家庭生活。白い大きな家に緑の芝生。ゆったりとした自家用車に冷蔵庫やエアコンが当たり前。そこで繰り広げられる家族のドラマは、優しいママ、物分かりのいいパパ、そして素直に成長してゆく子供達。それを嬉しそうに見守る大型室内犬。敗戦の痛手からまだ抜けきれていなかった日本の現状との格段の差に、完全にお手上げ状態になりました。

 さらに「白雪姫」「シンデレラ」等のディズニー映画は子供達に夢を教えてくれましたし、「テネシーワルツ」や「ラブミーテンダー」等々のアメリカンポップスは若者たちに音楽の楽しさを教えてくれました。
 (民主主義もアメリカが教えてくれたと言われます。しかしこれには異論を唱える人もいて、日本でも明治末期から大正時代には民主主義の芽が出かかっていたのですが、昭和の軍国主義に摘み取られてしまったという説もあります。)

 しかしコンプレックスと憧れの中で見ていたアメリカも変化し始めます。ベトナム戦争はその大きな転換点だったのでしょうか。第2次大戦後の東西冷戦下、アメリカ国内ではキング牧師に象徴される公民権運動が表面化。私の中でも徐々にアメリカに対するイメージが変わり始めたように思います。(このとき表面化したこの問題は、今回の大統領選挙でも、まだ解決できていない状況が明らかになりました。)
 それでもソ連を悪役にしたハリウッド映画を観て、アメリカに肩入れする自分がいたように思います。当時のニュース情報はほとんどがアメリカ経由で、東側のことは詳しくは分かりませんでした。

 そしてソ連の崩壊。アメリカの一人勝ちに見えました。しかしそれを手放しでは喜べない状況が世界中で始まっていました。経済力・軍事力世界一。そのアメリカが、世界の警察官を自負するには無理が見え始めていたと思われます。
国連を無視して突っ込んだイラク戦争は象徴的でした。アメリカに付き合ったイギリスの首相が、後に間違いを認めました。

 そして「アメリカ・ファースト」の登場。もう他国には構っていられない利己主義的宣言に聞こえます。私の中ではガラガラとアメリカのイメージが崩れて行きました。

 そうした中での今回の大統領選挙。世界の中でアメリカの果たすべき役割を忘れてしまったかのような罵り合い。「アメリカも落ちたなぁ」がまた口をついて出てしまいそうです。

 テレビ屋  関口 宏

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