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門前払い

テレビ屋 関口 宏

 もうすでに古い話になってしまったでしょうか、まだひと月ほど前のことなのですが・・・・・

  『松山英樹プロ マスターズ制覇!』

 下手の横好き、それでも50年近く私が親しんできたゴルフのこと。やはり書きとめておかねばと思い、今月のテーマにしました。

 改めて松山英樹プロに「大天晴れ!」。本当にお見事でした。戦前から多くの日本人、ばかりでなくアジア系のゴルファーが挑戦し続けても叶わなかった夢が、初めて松山英樹プロによってもたらされたのです。

 私も一度、この名門、オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブに招かれたことがあります。「えーっ!嘘!」という大きな声が聞こえてきそうですが、本当なのです。と言いましても、このド素人を名門ゴルフ場が呼んでくれるわけはありません。招待してくれたのは「マスターズ」のテレビ中継権を持つTBS。中継が終わった次の日に、テレビ局は何組か特別にプレーできる権利をゴルフ場から貰い受けていて、そこに私を呼んでくれたということなのです。

 もう30年ほど昔の話ではあるのですが、まだ40歳代だった私は興奮しました。あの名手、ジャック・ニクラウスが、大スター、アーノルド・パーマーがプレーした世界一美しいコースでプレーができる。腕に自信などあるわけもないのですが、とにかくラウンド出来るだけでも幸せ者と、喜び勇んで出かけました。


オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ

 日曜日の朝、日本での生放送を終え、飛行機に飛び乗り、ロスで乗り換えて、現地オーガスタに到着したのがその日曜日の夜。ですからその大会の様子は結果を聞いただけで観ていません。確かイアン・ウーズナムというイギリスの選手が優勝したとか。「地味な人が勝ったんだ」程度の印象でしたが、とにかく「明日!明日!明日のために私は遠路はるばるやってきたのだ!」と旅の疲れもあったかすぐ眠りにつきました。

 そして数時間後。夜明けとともに、何か不吉なものを感じて目を覚ましました。音です。窓を打つザーザーいう激しい音。
 「雨か!」と気づくのと、「?」が同時でした。慌てて同行のスタッフの部屋に行って見ると、浮かぬ顔でコーディネーターに電話をしています。「えぇ、えぇ、えぇ。あ、そうですか。中にも入れないのですね。・・・・・分かりました。ありがとうございました。」と言って電話を切りました。そして私を睨みつけるような顔をしながら「クローズです!」と言い切りました。それが全てでした。

 つまり、強い雨のためゴルフ場もクラブハウスも閉鎖。重いバッグを担いではるばるやってきたことが全て無駄になったということです。
 「門前払い」「一見お断り」「身分不相応」等々、様々な言葉が思い浮かびましたが、「がっかりした!」「がっくり来た!」が正直な感想でしょうか。仕方なく日本に帰る手続きに入りました。

 そんな骨折り損の思い出の中で見つめた今年の「マスターズ」。松山英樹プロ、立派でした。体格、力量、風格・・・・・どこを取っても世界に引けを取らないプレイヤーが生まれたと喜んでいます。そして下手の横好きで50年のヘボゴルフアーは、年々飛距離も技術も落ちまくり、今では100も切れなくなりました。「情けない!」と感じながらも日頃の運動不足解消と、アフターゴルフの一杯を楽しみに続けようと思っていますが、そこに立ちはだかった新型コロナウィルス。これが思うようにゴルフを楽しませてくれないのですが、そのストレスを吹き飛ばしてくれたのが松山英樹プロの「マスターズ制覇」だったと思われます。
 感謝、感謝、感謝。そして、おめでとうございました。

 テレビ屋  関口 宏

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