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断・捨・離 パート2

テレビ屋 関口 宏

 「断・捨・離」を迫られる事態がまた来てしまいました。4年ほど前、30数年住み慣れた家を出てマンションに移った時、このコラムで「断・捨・離」の必要性と、また同時に味わう、辛さ、寂しさを書かせていただいたのですが、まだ終わっていなかったのです。

 今度は、最近ほとんど使わなくなっていた事務所の一室。そこの新たな使い道が出てきたため、そこにあった物全てを始末せざるを得なくなったのです。久しぶりにその部屋に置いてあった物を見てみれば、もう着られない古ぼけた衣装から錆びたゴルフクラブ、もう2度と見ることもないと思われる切り抜きスクラップの束、今や何の価値もないと思われる古本・古雑誌。その辺りまでは「えーい、みんな捨てちまえ!」と思われたのですが、「いや、ちょっと待て!」がやはり出てきました。

 まずは4年前と同じく、自分の番組のVTR。あの時は苦しんだ挙句、「エイやっ!」で捨ててしまいましたが、事務所にはレアなものが結構残っており、「これはなー」としばし腕組みをしてしまいましたが、「もう再生する機械も持っていないし、今や“ユーチューブ”で見られるものもある訳だし・・・・・」で、「エイやっ!」になりました。さらに「エイやっ!」はカセットテープ、 MD(ミニディスク)と続きました。



 MDなんて覚えていらっしゃいますか。薄くて小さな四角いプラスチックの中にCDが入っているようなもので、扱いやすい感じがしたのですが、短期間で姿を消しました。(聞くところによると今でも作られていて、マニアには重宝されているそうです。)

 そして今回、一番悩んだのは・・・・・8ミリ映写機でした。

 ホームビデオが流行る前、世のお父さんたちは8ミリ映画に我が子の成長を記録したのです。女優さんが優しく語りかける「私にも写せます!」がテレビCMで話題になり、私もその流行に乗りました。
 カセットタイプの8ミリフィルムを、カメラにポン!と装填するだけで撮影できた優れものでしたが、あっという間にビデオに押され、姿を消しました。が、今回出てきたのはその撮影済みのフィルムを写す映写機。そのレトロチックな姿に、別れ難い想いが込み上げてきて困りました。が、「下さい!」と名乗り出た事務所の若者がいて、「よし!持ってけ!」でケリがつきました。



 そして不思議なことに、こんなところから一本、ウイスキーが出てきました。「マッカラン・10」。つまり10年ものです。しかし何時、何があってこれが存在するのか、見当もつきません。陽に当たっていないせいかラベルもしっかりしています。考えあぐねているところに年配のマネージャーが現れました。「うーむ・・・。多分“サンデーモーニング”10周年の時、誰かに頂いたんじゃなかったですかね」。と、それ以上の記憶も出ぬまま、そういうことにしようと決めたのでした。

 でも、ということは、10年もののウイスキーが放ったらかしにして35年ものになったわけで、「傷んでいるかもしれない」と心配しながらグラスに注いだのですが、これが何とも素晴らしい香りと味わいを与えてくれて、しばし「断・捨・離」とは何ぞや、を思い巡らしました。

 齢、78。色々なことを体験させていただいた末の整理の段階。そこには良くも悪くも様々な思い出が蘇ってくるのですが、その思い出も、「断・捨・離」と共に整理されてゆくような気がしました。


 テレビ屋  関口 宏

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