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巨泉氏へのご報告

テレビ屋 関口 宏

 大橋巨泉氏(享年82)の七回忌懇親会に参加してきました。新型コロナの第七波襲来の少し前でしたが、寿々子夫人と弟の哲也さんが気を使って下さり、ごく少人数の和やかな集いになりました。
 それにしましても七回忌。つまり6年が過ぎてしまった時の早さを思うと同時に、今お元気でいらしたら、この時代をどうお感じになったか、勝手に思いを巡らしていました。

 コロナに関しては、相当神経質になられたでしょう。オタクと言われるほど健康に関してはうるさい人でしたが、大好きだったゴルフは、「これは大丈夫だろう」と言って続けられていたと思います。
 しかしロシアのウクライナ侵攻については、戦争反対の戦中派として、大いに怒りまくっていたことでしょう。

 その巨泉氏は私の九つ年上。テレビの世界でも一世代先輩にあたります。
 テレビの創成期にジャズ評論家・放送作家として活躍するうち、自らテレビに出演するようになり、テレビ全盛期には「11PM」「クイズダービー」「世界まるごとHOWマッチ」等々ヒット番組を連発。さらには「書きすらのハッパふみふみ」と、意味不明の呪文を唱える万年筆のCMでも話題になりました。

 そしてご自身まだ全盛期の50代半ばで「セミリタイア」(完全引退ではなく、時々は仕事をするという巨泉語)と言って一線から退かれたのでした。

 私はこの巨泉さんにテレビの何たるかを見せていただいたと思っています。
 例えばテレビの特性の一つ、多様性。つまり政治・経済等の時事ネタがあり、競馬・麻雀・ゴルフもあり、そこに時々お色気ネタが挟み込まれても番組は成立するということを、「11PM」で教えていただいた気がします。
 その他にも、テレビの創成期を経験したが故の、テレビに対する哲学のようなものをお持ちだったという気がしていて、今のテレビの現状をご覧になったら、さぞ嘆かれるのではと思われるのです。

 テレビは変わりました。もう10年以上前から変化は始まっていたのかもしれませんが、ここ数年、特にコロナが始まってから変化が顕著になったような気がします。

 「Stay Home」。この掛け声とともに一瞬、テレビに視聴者が戻ったと思われましたが、それは束の間。普段テレビに馴染んでいなかった視聴者が、多チャンネル化したテレビに気づき、色々操作し始めて、地上波、BS以外のものに関心を示すような現象が起こりました。中でも「You Tube」には相当視聴者が集まったようです。他にもスポーツ専門チャンネルとか新作映画チャンネルとかにも視聴者を取られ、さらには若者のテレビ離れも加わって、メディアの王様、地上波テレビの試練が始まったように思われます。


 テレビ全盛期には、世帯視聴率20%以上の番組がいくつもあったのに、今では余程のことがない限り20%はおろか、15%番組ですら殆ど見かけなくなってしまいました。そして業界は世帯視聴率に重きを置かず、個人視聴率を参考にする傾向に走っています。

 巨泉氏が活躍された時代、テレビはお茶の間の中心に置かれ、テレビを楽しみにして下さる視聴者の方々がまだ沢山いらっしゃって、業界も鼻高々だったのです。それがネットの出現により足元を脅かされ、SNSが拍車をかけました。

 「諸行無常」、世は常に変化することは存じておりますが・・・・。
 巨泉さん、どこか淋しさを隠せない時代になりました。そしてコロナ、ウクライナが、より息苦しくさせている今なのです。

 2022年 7月末日


 テレビ屋  関口 宏

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