映画2題
テレビ屋 関口 宏
最近、印象的な2本の「映画」との出会いがありました。
その一本は『鶏はふたたび鳴く』。1954(昭和29)年、五所平之助監督による新東宝作品。また随分古い話を始めたと思われるかもしれませんが、実はこの映画、東京神田の神保町シアターが、「佐野周二生誕110年」と銘打って、佐野周二出演の12作品を、今年の9月17日から20日間公開して下さった中の一本。そして今やご存知の方も少なくなったと思われますが、佐野周二は私の父親なのです。
息子といえども、父親のすべての作品を観た訳ではありません。そこでこんな催しをやっていると私の息子に知らせたところ、是非観に行こうということになり、この『鶏はふたたび鳴く』を観ることになったのです。
100席ほどのシアターは、私よりも先輩と思われる年配者でほぼ満席。この方達はどのような方達なのだろうかと思いつつ、「よく足を運んで下さいました」と感謝しながら、息子と隣り合わせで、亡き父の姿を観る不思議な時を味わいました。つまり久しぶりに、親子三代がそこに居合わせたことになるのです。
父・佐野周二が66歳で逝ったのは1978(昭和53)年。私は35歳、私の息子は7歳の時でした。ですから息子も、元気だった頃のお祖父ちゃんの記憶はしっかり残っているはずです。しかしスクリーンでの、素顔とは異なる顔・姿を見せられると、身内としてはどこか気恥ずかしい感じになるもので、感想らしき思いを述べ始めたのは帰りの食事が大分進んでからのことでした。
映画の舞台は、かつて天然ガスで栄え、その後寂れてしまった海辺の田舎町。苦労する正直な労働者達(佐野周二はその1人)と、町の人々、そこに紛れ込んできたペテン師が繰り広げるドラマを、モノクロームの陰影を巧みに活かしながらまとめられた作品でした。
「不思議な映画だったなぁ」は2人共通の感想。戦後の映画全盛期に生まれた作品で、「鶏はなんだったのかな」の私の問いに、「もしかすると、聖書に出てくる物語の引用じゃない?」と息子。そういえば「明朝、鶏が鳴くまでに、私を裏切る者が出る」と言ったとされるイエス・キリストの言葉は有名。「ああ、そうかもしれないなぁ」と2人で納得し合いました。
そしてもう一本の映画は、友人に勧められて観た『桜色の風が咲く』。
松本准平監督の新作。幼少期に両視力を失い、さらに18歳の時には聴力も失いながら、懸命に生きた福島智という男性と母との実話を描いた作品。この福島さんは、全盲ろう者のハンディを背負いながら、首都大学東京(現・東京都立大学)に合格。そして2008年より東京大学教授になられました。
作品は、何事もないとつい遠のいてしまいがちな大テーマ・「生きるとは?」を、見事に描ききっていると私には思えました。演出その他全てのスタッフはもちろんのこと、小雪さんを中心にした俳優陣にも拍手です。
そして映画の中で描かれていた「指点字」にも驚きと感銘を受けました。
視覚障害者のコミュニケーションの手段は声での会話。聴覚障害者には手話や筆談がありますが、盲ろう者とのコミュニケーションはどうするのか。その方法を考案されたのが福島さんの母・令子さんだったそうです。それは、相手の指と自分の指を重ね合わせ、そこに点字を打つような指の動きをすることで、コミュニケーションがとれることを令子さんが発見されたのです。
桜色の風は、本当に咲いたのです。
テレビ屋 関口 宏
その一本は『鶏はふたたび鳴く』。1954(昭和29)年、五所平之助監督による新東宝作品。また随分古い話を始めたと思われるかもしれませんが、実はこの映画、東京神田の神保町シアターが、「佐野周二生誕110年」と銘打って、佐野周二出演の12作品を、今年の9月17日から20日間公開して下さった中の一本。そして今やご存知の方も少なくなったと思われますが、佐野周二は私の父親なのです。
息子といえども、父親のすべての作品を観た訳ではありません。そこでこんな催しをやっていると私の息子に知らせたところ、是非観に行こうということになり、この『鶏はふたたび鳴く』を観ることになったのです。
100席ほどのシアターは、私よりも先輩と思われる年配者でほぼ満席。この方達はどのような方達なのだろうかと思いつつ、「よく足を運んで下さいました」と感謝しながら、息子と隣り合わせで、亡き父の姿を観る不思議な時を味わいました。つまり久しぶりに、親子三代がそこに居合わせたことになるのです。
父・佐野周二が66歳で逝ったのは1978(昭和53)年。私は35歳、私の息子は7歳の時でした。ですから息子も、元気だった頃のお祖父ちゃんの記憶はしっかり残っているはずです。しかしスクリーンでの、素顔とは異なる顔・姿を見せられると、身内としてはどこか気恥ずかしい感じになるもので、感想らしき思いを述べ始めたのは帰りの食事が大分進んでからのことでした。
映画の舞台は、かつて天然ガスで栄え、その後寂れてしまった海辺の田舎町。苦労する正直な労働者達(佐野周二はその1人)と、町の人々、そこに紛れ込んできたペテン師が繰り広げるドラマを、モノクロームの陰影を巧みに活かしながらまとめられた作品でした。
「不思議な映画だったなぁ」は2人共通の感想。戦後の映画全盛期に生まれた作品で、「鶏はなんだったのかな」の私の問いに、「もしかすると、聖書に出てくる物語の引用じゃない?」と息子。そういえば「明朝、鶏が鳴くまでに、私を裏切る者が出る」と言ったとされるイエス・キリストの言葉は有名。「ああ、そうかもしれないなぁ」と2人で納得し合いました。
そしてもう一本の映画は、友人に勧められて観た『桜色の風が咲く』。
松本准平監督の新作。幼少期に両視力を失い、さらに18歳の時には聴力も失いながら、懸命に生きた福島智という男性と母との実話を描いた作品。この福島さんは、全盲ろう者のハンディを背負いながら、首都大学東京(現・東京都立大学)に合格。そして2008年より東京大学教授になられました。
作品は、何事もないとつい遠のいてしまいがちな大テーマ・「生きるとは?」を、見事に描ききっていると私には思えました。演出その他全てのスタッフはもちろんのこと、小雪さんを中心にした俳優陣にも拍手です。
そして映画の中で描かれていた「指点字」にも驚きと感銘を受けました。
視覚障害者のコミュニケーションの手段は声での会話。聴覚障害者には手話や筆談がありますが、盲ろう者とのコミュニケーションはどうするのか。その方法を考案されたのが福島さんの母・令子さんだったそうです。それは、相手の指と自分の指を重ね合わせ、そこに点字を打つような指の動きをすることで、コミュニケーションがとれることを令子さんが発見されたのです。
桜色の風は、本当に咲いたのです。
テレビ屋 関口 宏