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WBC・日本チーム、ありがとう!

テレビ屋 関口 宏

 「しまった! 他の日にしておけば良かった!」と思ったのは、新型コロナの規制も緩んできて、仕事仲間と約束した食事会のスケジュール。いまさら断るわけにもいかず、「ま、早めに切り上げて急いで帰れば、間に合うだろう」と出かけて行ったのですが、あにはからんや、一人の若い仲間の気配りに、すべての心配は吹っ飛んでしまいました。それは「今」という時代だからこその出来事であり、普段からその世界に馴染んでいれば、何ということもない当たり前の事なのかもしれませんが、昭和男は、この展開に感激してしまいました。

 実はその日は、WBC 日—韓戦のテレビ放送がある日だったのです。私は是非この試合を「生」で観たいと思っていたわけですが、その若い仲間が用意してくれた「タブレット」が全てを解決してくれたのです。「タブレット」にはしっかり日—韓戦が映し出され、それを観ながらゆっくり食事を味わい、親交も温めることができました。

 この出来事は今や珍しい事でも何でもないのかもしれませんが、昭和男には、ふと懐かしい日々が蘇ったのです。


 今年は日本でテレビ放送が始まって70年の年にあたります。
 私は今年80になりますので、私が10歳頃の話。映画関係の仕事をしていた父には、「映像」という共通の関心も手伝ったのか、まだ高級品だったテレビなるものをいち早く買い込みました。そして力道山のプロレスが放送される日には、我が家は、映画「三丁目の夕日」(原作・西岸良平氏の漫画)のごとく、人、人、人でごった返し、力道山の空手チョップに歓声を上げたのです。もちろん私もその日は早めに学校から帰り、力道山を待ちました。(余計な話かもしれませんが、力道山の必殺技・空手チョップが、放送終了間際にしか出ないのは何故なのかという疑問が、小学生の私につきまとったのですが、やがて「This is SHOW」と理解しました。)

 それからしばらく、テレビは全てが生放送の時代。ビデオテープや収録機(レコーダー)が登場するまでは、新聞のラ・テ欄(ラジオ・テレビの番組紹介欄)を見て、観たい番組があれば、その時間までに帰宅しなければなりませんでした。

 私の大人になってからのテレビの楽しみ方は、観たい番組の放送開始時間少し前に帰宅し、風呂に入って、そして冷たいビールをどん!とテーブルに置いて、ボクシングだのナイターだのの「生」放送を、「さぁー来い!」とばかりに楽しんだのです。

 やがてビデオテープ、レコーダーが登場。テレビは必ずしも決められた時間でなくても見られる便利な時代になりました。またテレビ自体の値段も下がり、一家に一台時代は終わり、家族が囲むように大事にしていたテレビが、茶の間の主役の座から降りる時代になりました。

 つまり、テレビは便利になればなるほど、当たり前のものになり、「見逃し配信」なるサービスも登場。いつでもどうにでもなる便利さが、逆に、昭和男が面白がった「生」のテレビの魅力を、曖昧にしていっているように感じていたのです。

 それが今回の出来事で、テレビはやっぱり、「生」「今」に大きな魅力があることを思い出させてもらった気がしました。

 そしてその後のWBC 日本チームの活躍。世界一は本当に立派だったと感動しました。視聴率も驚異的な40パーセント越え(今、20パーセントを超える番組はほとんどありません)を連発。それは全て、「生」で試合をご覧いただいた結果だったわけで、テレビの強みは「生」「今」であることを多くの方が実感されたものと、テレビ屋も喜んでいるのです。


 テレビ屋  関口 宏

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