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ビデオ映像の行方

テレビ屋 関口 宏

 今月も「日本のテレビ放送開始から70年」の話になります。
放送開始当初は、ビデオテープなどありませんから、フィルムものは別にして、ほとんどの番組は「生放送」。それゆえの失敗談・苦労話には涙ぐましい事もあって、それだけの価値があったとも思われます。

 そしてスタートから10年もしないうちにビデオテープが登場します。アメリカからの輸入ものと聞きましたが、相当高価なもので、大量には入手できず、僅かなテープを大事に使い廻していました。つまり放送が終わったら即消去して、新しい番組の収録に使うことを繰り返していたのです。それゆえこの当時の名物番組で、映像として残されていないものが沢山あるのです。

 しかしテレビ局にとっては、このビデオテープの出現は、救世主が天から舞い降りたほどの有り難みがありました。
 何度でも取り直しができるから失敗を恐れずにすむ。撮り溜めが可能になるから番組を増やして営業時間を広げ、やがて24時間フル営業のテレビになっていったのです。(スタート当初は朝・昼・晩、限られた時間にしか放送できませんでした。)

 やがて家庭用のビデオデッキも普及し始め、視聴者は放送時間に縛られずに好きな番組を見られるようになっていきました。
 そして今、家庭用の録画機も更に進歩して、ハード・ディスクによって、たっぷり録画できますし、スキップしたり、追いかけ再生も可能になって、至れり尽くせりの時代になりました。

 しかし皆さん。家庭用の録画機は今、どんな物に録画しているか、お分かりでしょうか。一昔前なら、カセット型のビデオテープを録画機に出し入れして使っていましたから、このテープに映像が録画されることは誰にでも理解できたのですが、ビデオテープはとっくの昔に姿を消し、今では、素人には仕組みがよく分からないながら、使い方を知っただけで利用できる便利さを享受しているのです。

 そのいい例がスマホかもしれません。スマホにはカメラがついていますし、動画も録画できます。でもその映像は何に録画されているのでしょうか。
スマホの中にビデオテープは入っていません。


 最近、仕事仲間と一杯やっている時にこの話題になったのですが、残念ながら業界の人間ですらよく分かっていませんでした。でも使い方さえ知ってしまえば誰にでも便利に使えてしまう。その結果、映像が大氾濫する時代になりました。
 ついこの間まで映像はプロの仕事だったのに、今や素人映像が世間に溢れ、時にはテレビ業界も、この素人映像に頼る場面が多くなりました。

 しかし一方では、フェイク(偽)映像に気をつけねばならない時代にもなりました。今も続くウクライナ紛争でも、出てくる映像の真偽のほどは、よほど事情に詳しい人でなければ見分けがつかなくなっています。

 テレビ放送が始まって間もなく、映像が物を言うテレビにはかなわないと、マスコミの先を行っていた新聞・ラジオがお手上げになりました。そして70年。「マスコミの雄」テレビは、ネット・SNSに振り回されています。

 話をビデオテープに戻します。
 そのビデオが登場した頃、私も業界の端くれにおりました。そしてある先輩の「一言」が印象に残っています。
 それはまだ始まったばかりの、ビデオテープによるドラマの収録中の、何気ない「一言」でした。
   「ビデオか・・・テレビもつまらなくなるな・・・」
 まだ新人の域を出ていなかった私には、その言葉の意味を即座に理解することはできませんでしたが、年を重ねるにつれ、徐々に分かってきました。
 それにつきましては、また改めてご説明したいと思っております。


 テレビ屋  関口 宏

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