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『 オシャレな塩味? 』

テレビ屋 関口 宏

 この季節、私は「天ぷら」が食べたくなります。子供の頃を思い出すからで、小学生の頃、よく親父に連れられてお台場へ釣りに行きました。朝早く、品川から釣り船に乗って「はぜ」を釣りに行ったのです。

 「はぜ」の旬は秋だそうですが、梅雨前の爽やかさに誘われるのか、あちこちから釣り船が出てきて、お台場は釣り船で埋め尽くされたかのようになりました。


昭和30年代のハゼ釣り船(写真撮影:澤田洋一氏)江戸前ハゼ復活プロジェクトHPより

 釣り方は簡単。短い竿から生きた餌のゴカイ(これがミミズに似ていると言って嫌がる人もいました)をつけた針を海中に垂らすだけ。水深も浅いので、釣堀の要領で楽しめるのです。子供だった私でも2~30は釣れました。時には入れ食い状態(糸を垂らすと同時にビリビリッとくる状態)になることもあり、船頭さんは「湧いてきたな!」と言って喜んでいました。
 この「湧く」という表現が面白いのですが、湧いてくるほど大量の「はぜ」が、お台場近辺にはいたのでしょう。今では「はぜ」も高級魚になってしまうくらい数が減っているそうです。

 やがてお昼近くになるとあちこちから美味しい匂いが漂ってきます。釣ったばかりの「はぜ」を、船上で「天ぷら」にして楽しむのです。これは子供でも大いに喜んだものです。それほど美味しいものがまだない時代(昭和20年代)。
大変な御馳走でした。
そして「はぜ」の中に「メゴチ」という魚が混じっていて、これが美味いと大人達は喜んでいました。見た目は「はぜ」によく似ているのですが、両顎から棘のようなものが出ていて、これが魚籠(びく)に引っかかるので、釣っている時には厄介なのですが、「天ぷら」では「はぜ」よりも喜ぶ人がいました。
 「はぜ」が揚げたてはホクホクした美味さに比べて「メゴチ」はプリプリッとした感じでした。しかし数は少なく、「はぜ」10に対して「メゴチ」1くらいの割合でした。その「はぜ」も「メゴチ」も数が減り、「天ぷら屋」でも置いていない店が増えました。寂しい限りです。


メゴチの天ぷら

 ちなみに「はぜ」「メゴチ」に、さらに混じるものがありました。たまに釣れる「カレイ」です。お台場の海底は砂地なので、「カレイ」もいたのでしょうが、これは「大当たり!」と言って大人達は喜んでいました。でもこれはその場で「天ぷら」にはできませんので、家へのお土産。塩焼きにして家族に喜ばれました。

 その後、日本の経済復興の陰でお台場は汚染され、「はぜ」も「メゴチ」も「カレイ」も激減してしまったのですが、今どうなっているでしょう。多少でも綺麗になっているのでしょうか。

 そして「天ぷら」です。最近では様々な「塩」の味で楽しめるようになりました。しかし戦後しばらくは「塩」は「専売公社」の独占。それだけ重要なものだったのでしょうが、どこへ行っても同じ味の塩。日本全国同じ味なのですから、大量に作られた化学塩だったのではないかと思っていました。

 それが解禁され、様々な塩の味が楽しめるようになり、料理全般が進化したと思っています。
でも実は私は、「天ぷら」は、「天つゆ」たっぷりの食べ方が好きで、最近のオシャレな食べ方には、まだそれほど馴染んでいません。


     テレビ屋  関口 宏

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