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2020年9月号

政界と財界が揺さぶるNHK (上)

塾長 君和田 正夫

  三井物産グループと四季の会

 NHKは2021年から2023年までの『経営計画』をまとめました。5項目の重点投資の一つが「NHKらしさを実現するための人事制度改革」です。採用から退職まで人事制度を抜本的に改革することを謳って、テレビ画面で流しています。内部の人事制度の改革を怠ってはいけませんが、もっと大事なことは、NHKの経営委員長、会長人事です。委員長の番組介入疑惑も起きたばかりです。1926年の社団法人設立から約100年が経とうとしている今、不見識な政界や財界にもてあそばれてきた長い歴史にピリオドを打つ時です。
 歴史を振り返るため、引用をお許しください。「塾長室」で過去に書いた初代会長の話です。
 「三月十一日には、三井物産岩原重役が、贈賄の嫌疑で収監され、翌十二日からいっさい接見を禁止されてしまった。気の弱い岩原は精神錯乱状態に陥って、幾度も陳述をひるがえし、ついに検事の誘導尋問にかかって、被疑者松尾鶴太郎の要請に応じて支払った謝礼金は、重役会に諮り全員一致して議決したと、全く虚偽の自白をしてしまった」(『史話・軍艦余禄 謎に包まれた軍艦「金剛」建造疑獄』紀脩一郎著)。

  懲役2年でNHK会長に

 時代は100年前の1914年(大正3年)、軍艦「金剛」の建造にまつわる国際的な贈収賄事件、いわゆるシーメンス・ヴィッカーズ事件が発覚した年です。第一次山本権兵衛内閣は関東大震災の混乱を受けて成立しましたが、この事件で崩壊しました。贈賄側に岩原とあるのはヴィッカー社の日本代理店をしていた三井物産取締役の岩原謙三です。驚くことに岩原はのちに初代のNHK会長になりました。岩原はほかにも芝浦製作所社長、台湾精糖社長などを務めていたので、出身母体が元芝浦製作社長になっている記録があります。またNHK会長の直前はNHKの前身である「東京放送理事長」をしていたので「メディア出身」と表記されていることもあります。三井物産との関連はなかなか見えてこないのです。
 結局、岩原は贈賄などの罪で懲役二年の判決を受けましたが、控訴の結果、懲役二年に執行猶予四年がつきました。「内閣を倒すほど世間で重視された事件にしては、どうも判決が軽すぎるという印象はぬぐえないのではなかろうか」(日本政治裁判史錄 大正)という指摘があります。この事件の賄賂は40万円。現代の価値に換算すると十億円前後という巨額な汚職になります。金額から考えても政治的な背景をうかがわせるに十分な判決でした。

  疑獄事件の片方の主役が初代のNHK会長に就任したことが、醜悪ともいえる政治の臭いをさらに強くすることになりました。1926年に77歳という高齢で就任し、しかも1936年に死去するまで10年にわたり会長を務めました。
 岩原が会長になったのは満州鉄道の初代総裁や東京市長(現在の都知事)を務めた後藤新平の強い推薦があったことが挙げられています。商売上も芝浦製作所という放送機材に近い企業にいたことが有利に働いた、とも言われています。今日まで続く政治との癒着はすでにスタート時点から始まっていたわけです。

  NHK の文化性で過去を拭う?

 三井物産は岩原の後にもNHK会長を送り込んでいます。第14代会長の池田芳蔵氏と21代の籾井勝人氏です。二人とも“問題会長”として話題になりました。池田氏が物産の会長を終えてNHKの会長に就任した77歳という年齢も異様です。

 NHKの決算を審議する衆議院逓信委員会(88年12月14日)で英語で答弁したことは後世に残る珍事として語り継がれています。社内向け挨拶や番組審議会などでも労害と思える発言が相次ぎ、岩原氏とは逆にわずか9カ月で退任に追い込まれました。
 籾井氏は物産の専務、副社長をした後、三井系の日本ユニシス社長になりました。NHK会長に就任してすぐ、政権べったりの発言で顰蹙(ひんしゅく)を買いました。「政府が右というものを我々が左というわけにいかない」という発言が代表例です。こんな発言は一般社会でも表立って言うことには恥かしさを感じるでしょう。 
 籾井氏の異常ぶりは海外でも発揮されていて、2013年にはアジアバドミントン連盟の会長を「リーダーとしての務めを怠った」として解任されています。NHK会長に就任したのはその翌年ですから、どのような選考がおこなわれたのか疑われるのは当然です。
 二人に共通しているのはメディアについての知識や理解があまりに薄っぺらだったということでしょう。一般社会人としての見識さえ感じられません。NHKという文化性の高い組織のトップになって得意だったかもしれません。そう考えると、岩原初代会長も「犯罪者」という経歴を拭ってやろうという配慮を誰かがした、という推測も成り立ちます。

  「4人目」を狙うのか

 なぜ物産はそうした人材を送り込むのでしょう。知り合いの元役員は「物産は会社を離れた人の去就には一切、関与しない」と言いきりました。そうでしょうね。財界で無名に近い籾井氏を苦労してNHKに送り込んだとしても、三井物産にどんなメリットがあったのか、と考えると、元役員の言う通りだろうと思います。しかし現在も経営委員に三井物産の社長だった槍田松瑩・顧問が就任しています。一時は石原進前委員長の有力な後任候補の一人とみられていました。まさか委員長か会長か、物産4人目のポストを狙っているのではないでしょうね。
 理解しがたい人事のカギを握っているのは「四季の会」です。安倍応援団として有名な財界人の集まりです。JR東海の葛西敬之取締役名誉会長、富士フイルムホールディングスの古森重隆会長が中心と言われています。
(2020.08.25)



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JR 関係出身のNHK会長、委員長が目立っています。特にJR東海です。委員長と会長の関係を整理しますと、「上」で書いた初代会長、岩原謙三氏の時代は経営委員会はありませんでした。

君和田 正夫

塾長

1941年(昭和16年)生まれ。早稲田大学卒。
1964年、朝日新聞社入社、経済部記者などを経て2005年(平成17年)テレビ朝日に。
退任後「独立メディア塾」の共同代表。

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