馬糞とスズメとマッシュルーム
塾長  君和田 正夫
内容は馬に餌をたくさんやれば、フンもたくさん出てスズメがおこぼれにあずかる。富裕層が潤えば、その効果が庶民に「滴り落ちる(トリクルダウン)」という経済理論。庶民をバカにするな、と誰でも思うが。馬糞にはなんと「シャンピニョン」と呼ばれるキノコ、マッシュルームをニョキニョキ生む力もあるらしい。残念ながら、「アベノミクス」で滴り落ちてきたのはどちらでもなく低賃金だった。
国民をあきらめさせたら勝ち
経済政策に限らないが、国の政策はいつの時代も上から下への「一方通行」だ。多分、その代表選手として際立ったのが安倍晋三さんだったろう。森友、桜見物、統一教会などすべての答えが「わからない」「答弁を控える」という一方通行方式だった。安倍氏が2019年11月~2020年3月の間、国会で計118回の虚偽答弁をしていたことを、衆院調査局が明らかにしている。安倍さんは政治の本質を教えてくれた。そう、すぐ飽きる国民は「知りたがってはいけない」と蹴散らかす。これが出来れば「やりたい放題政治」の完勝だ。だから安倍政権は長続き出来た。
貧乏人の涙、乞食の仕事
「トリクル理論」を聞いた時、「昔と変わらない」と感じたものだ。「金持ちの快楽は貧乏人の涙を以て購われている」(トマス・フラー。17世紀の神学者らしい)
「一人の富者がなんと多くの乞食を養うことか。王が建築を始めれば、馬車引きに仕事が生まれる」(シラー)。「第九」のシラーだとすれば、200年前だ。
究極の「上から目線」はプラトンの「高貴なウソ」だろう。人間には出自に関係無く「金・銀・銅・鉄の 差異がある」。政策のためには、「その差異・役割」を使って少々のウソをついてもいい。最近まで、自分に都合よく解釈した大国の指導者がいた、と聞いたことがある。
「花見酒の経済」の国債依存
それが、ここへきて変わり始めたのかしら。「物価上昇を上回る賃上げを」「18歳までの子供に毎月5000円を」。
いいねぇ!少し、下から目線に角度が代わったかな。
「ところが」というか「案の定」というか、財源論が必ず出てくる。
いずれ出る答えは「国債」。議員諸兄はそれを承知の上でむなしい議論を繰り返し、経済も福祉も軍備も「日銀の印刷機に頼りきってしまった日本」の姿を映し出す。
馬の糞はスズメだけのものではない。誰もが喜ぶキノコも増やす。米国・中国の間で外交能力を発揮するのが日本らしい生き方ではなかったか?去年まで知らなかったウクライナを都合よく利用しようとしている人が多いのではないか?
今、日本は1000兆円を超える国債を抱えている。いくら借金しても貸主は国民。だから返し合えばいい。落語の「花見酒の経済」(笠信太郎)を想い起こさせるね。
(天声人語)「馬とスズメ」の幻想
2022年11月6日 5時00分「トリクルダウン」などと聞こえの良い呼び方をするから、いつまでも生き残るのではないか。富裕層や大企業が豊かになれば中間層以下にも効果が滴り落ちるという経済理論である。無理筋だと言われつつ、亡霊のように現れては消える▼日本では、アベノミクスをめぐる議論で語られた。終わったものと思ったら、英国のトラス前首相の大型減税策でまたもや出現した。案の定、世論は「金持ち優遇だ」と猛反発。金融市場が混乱した結果、史上最速で首相の座を失った▼古くからあるこの理論が最も注目されたのは、サッチャー英政権が新自由主義や「小さな政府」を目指した1980年代だ。そのころ英国の大学で経済学を学んでいた私は、「馬とスズメ理論」だと習った。講師は「馬に麦をたっぷり与えれば、その排泄(はいせつ)物でスズメがおこぼれにあずかるという考え方」と説明した▼トリクルダウンの名が広がったころ、もしやあの講師だけが下品だったのかと気になって調べたら、米経済学者のガルブレイス氏が言及していた。貧困層に非情な理論で、「常に軽い嘲笑で迎えられた」と書いた▼サッチャー氏は、最後の党首討論で「貧富の差が広がった」と追及され、こう言い返した。「金持ちが貧しくなりさえすれば、貧乏人がもっと貧しくなってもいいのか」。富は滴るとの主張は曲げなかった▼グラスからあふれるワイン、流れ落ちる泉、そして馬とスズメ。長く想像力をかきたててきた理論も、ついに年貢の納め時か。
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