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男は反省しない

塾長  君和田 正夫

 森さんは女性を食うライオンでしょうか。元首相、東京五輪の組織委員会会長だった森喜朗さんのことです。
 ギリシャ・ローマ時代、女性には公的な発言が許されませんでした。許された例外は、人身御供や殉教者として死を迎える女性でした。自分の信念を堂々と主張してからライオンの前に進む女性たちの姿が描写されているそうです。(「舌を抜かれる女たち」メアリー・ビアード著)
 森さんはライオンでしょうか。あるいはライオンの使い手でしょうか。古代オリンピック発祥の地の伝統を今も守り続けているのでしょうか。

  「これはひどい」の二連発

 森さんの「トンでも発言」のおかげで、女性に関する政治家の暴言、失言、非常識発言が過去にさかのぼって掘り返されています。その中でも「これはひどい」の例を一つ。
 2003年(平成15年)6月26日、鹿児島市内で全国私立幼稚園連合会九州地区の討論会が開かれました。ここで二つの発言が連発銃のように発射されました。
 まず自民党行政改革推進本部長の太田誠一元総務庁長官(自民党、福岡県)。直前に起きた早稲田大学の学生サークルによる集団レイプ事件について「集団レイプする人はまだ元気があるからいい。まだ正常に近いんじゃないか」。
 太田氏は直後に行われた総選挙で落選しました。

 もう一人はこうした騒ぎの常連、森さん。この発言の2年前まで首相を務めていました。
 「言いにくいことだけど、少子化のいま議論だから言いますが、子供をたくさん作った女性が将来、国がご苦労さまでしたといって面倒を見るっちゅうのが本来の福祉です」。
 「ところが、子どもも一人も作らない女性が、好き勝手とは言っちゃいかんけど、まさに自由を謳歌して楽しんで、年取って、税金で面倒見なさいちゅうのは、本当はおかしい」。
 この発言の延長線上に森さんの「女性が入ると時間がかかる」「わきまえて発言を」が続くわけです。

  「男尊女卑」が「たしなみ」に

 「女ことばと日本語」の著者・中村桃子氏は「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」の福沢諭吉でさえ「婦人は静かにして奥ゆかしきこそ、頼母しけれ」と明言していたことを指摘しています。
 そのうえで「女性のためのマナー本」の変化に着目します。この手の本は鎌倉時代にまでさかのぼることができるそうですが、長い間、女のしゃべりは社会秩序を乱すとして警戒され、当然のようにマイナスの評価を受けていました。時代とともに男尊女卑のあからさまな表現が後ろに隠れました。そして置き換わったのが、日常生活の「つつしみ」というプラスの評価基準でした。その結果、女性の言葉づかいの「あるべき規範」が、女性を支配する思想に基づいていることが見えにくくなった、というわけです。男から見れば「目からうろこ」の指摘だ、と思うと同時に、男は悪賢いなと思う指摘です。

 森さんの「わきまえ発言」は「つつしみ」と同じです。見えにくくしていた女性蔑視の思想を白日の下にさらした、という意味で勇気ある発言です。

  「説教したがる男たち」の失言

 古代ギリシャで始まったオリンピックは男だけが参加資格を持ち、女は観戦することさえできなかった。男は全裸。女性抜きがオリンピックの基本精神だったわけです。ということは、「とんでも発言」は古今東西、世界共通語だったということになります。

 また本からの引用で恐縮ですが、「説教したがる男たち」(レベッカ・ソルニット著)で米国共和党員の発言を糾弾しています。
 「レイプされた女性の身体は妊娠を避けるよう機能するはずだ」と言ったのは当時下院議員だったトッド・エイキン氏。
 「レイプによる妊娠は『神の恩寵』だ」と唱えたのがリチャード・マードック氏。
 エイキン氏は2012年の上院選挙に共和党から立候補していました。衝撃的な発言に危機感を持った共和党は、エイキン氏に出馬辞退を要請しましたが拒否されました。結果は落選でした。
 マードック氏は候補者討論会で中絶に対する意見として「おぞましい状況だったとしても神の意志だ」と述べ、世論の反発を買い、落選しました。
 先進国の代表選手、米国でもこの有様です。

 いつの時代も暴言・失言の主はほとんど男です。なぜ男は反省しないのでしょう。女は男のような判断力を持たない、メディアは悪意の塊だ、自分は正しいのに理解されていない。男は(特に政治家は)そう思い込んでいるからです。悪いのはいつも相手。自分は被害者だと訴えているようにも見えます。

  選挙こそ政治家を変える手段

 私も男です。どこかで「思い込みの罠」にはまるでしょう。かろうじて罠から逃れる手段があるとすれば、選挙の投票だろうと思っています。文化の退廃は人間の目を開かせてくれることがありますが、政治の退廃は国民の目をつむらせるだけです。

 最後に「舌を抜かれる女たち」から。
 「女性としてどういう路線を取ったとしてもそれに関係なく、伝統的に男性のテリトリーとされるところにあえて足を踏み入れれば、どのみち嫌がらせをされます。相手を刺激するのは、あなたが何を言ったかではなく、単純にあなたが発言したという事実なのです」。

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