メディアの鎖国はいつ解ける(上)
塾長  君和田 正夫
東北新社の外資規制違反は、遠い昔、1996年に起きた孫正義・ルパート・マードック両氏によるテレビ朝日株の買収事件を思い出させてくれました。あの時の株保有率は「21.4%」、今回は「20.7%」。あの時は買い戻し金額が417億円の「黒船騒動」。今回はぐんと安っぽくなってお土産込み、首相の息子付き接待騒動。そこにフジテレビの親会社というべきフジ・メディア・ホールディングスの20%違反が加わり、放送法が定める外資の持ち株比率にどんな意味があるのか、改めて考えさせられました。そのきっかけを作ってくれた菅義偉首相の長男、正剛さん、ありがとう。
放送だけでなく、航空法、電信電話法によってJAL、ANAといった航空会社や日本電信電話なども外国人の株所有に制限があります。政治、経済、文化等、国の存亡にかかわる外国からの影響を抑えようという狙いです。情報の国際化は不可避であると同時に「LINE」騒動のように放置すると国の安全が脅かされる、ということになります。
テレ朝の株買収騒ぎのときも20%が騒ぎのもとになりました。1996年6月21日の共同通信は、買収劇を次のように伝えています。
「ソフトバンク株式会社は、20日、世界的なメディア王として知られるルパート・マードック氏が率いるオーストラリアの複合メディア企業、豪News Corp.と合弁会社を設立し、間接的に全国朝日放送(テレビ朝日)に資本参加すると発表した」。
「(両氏は)9月末までに折半出資で合弁会社を設立。テレビ朝日の発行済み株式の21.4%を保有する旺文社の100%出資子会社の『旺文社メディア』の全株式を買収する。買収金額は約417億円。放送局への外資参入は約20%までに規制されているが、News Corp.の合弁会社への出資は50%なので、問題はないという」
1990年代中ごろは日本では「インターネット元年」といっていい時代でした。のちになって孫さんが述懐しています。「メディアにも黒船が来たのか、乗っ取られるぞ、という反発は半端でなかった」と。
しかし、外資規制について両氏は記者発表の通り合弁会社で対応しました。
ソフトバンクとNews Corp.は折半出資の会社を設立し、その合弁会社がテレビ朝日株21.4%を保有することにしました。折半出資なので2人のテレ朝株は10.7%ずつになる、というわけです。
11月7日、テレ朝は臨時株主総会を開き、両氏が送り込んでくる取締役2名を受け入れる予定でした。しかし開催直前になって問題が起きました。取締役候補の1人が「日本人某」となっていて、固有名詞が挙げられていなかったのです。朝日新聞は「日本人某では受けられない」と総会を延期したのです。
翌1997年の3月2日、ホテルオークラで株式の買い戻しが行われました。価格は彼らが買った価格と全く同じ417億円。
この騒ぎで大事な点は、放送法の20%ルールとは関係なく、「反孫・マードック」「反黒船」の包囲網ができてしまったことです。
株の買い戻し・売り戻し契約に調印する時、孫さんの渋い顔を忘れられません。ネットとテレビの融合、相互乗り入れへの挑戦をあきらめきれなかったのでしょう。マードック氏は正反対にサバサバした表情でした。「この国はアカン。手を出したのは失敗だった」といわんばかりでした。
マードック氏は出身のオーストラリアから英国、米国に進出し、新聞を買収してきました。米国では映画会社「20世紀フォックス」を買収し、ニュース専門チャンネルのFOXニュースを立ち上げ、自分の国籍も米国に変えてしまいました。メディアといえども合従連衡は当たり前、というのが彼にとっての常識なのでしょう。その常識が通じなかったのです。
この騒ぎに続くように、2005年にライブドア(堀江貴文社長)がフジテレビを、楽天(三木谷浩史社長)がTBS株を、という二件の株式買収を巡る動きがテレビ界を揺さぶりました。テレビ局は外資規制で安心していたのに、「国内の黒船」に意表を突かれたのです。
JAL、ANAにも外資規制
放送法は地上波やBS放送などの事業者に外資規制を定めています。外国の個人・法人などが株式の20%以上を持つ事業者は放送を行えない、20%以上の議決権を持たせない、という決まりです。東北新社はこの規定違反で5月1日から洋画専門の有料チャンネル「ザ・シネマ4K」の認定が取り消されることが決まりました。放送だけでなく、航空法、電信電話法によってJAL、ANAといった航空会社や日本電信電話なども外国人の株所有に制限があります。政治、経済、文化等、国の存亡にかかわる外国からの影響を抑えようという狙いです。情報の国際化は不可避であると同時に「LINE」騒動のように放置すると国の安全が脅かされる、ということになります。
テレ朝の株買収騒ぎのときも20%が騒ぎのもとになりました。1996年6月21日の共同通信は、買収劇を次のように伝えています。
「ソフトバンク株式会社は、20日、世界的なメディア王として知られるルパート・マードック氏が率いるオーストラリアの複合メディア企業、豪News Corp.と合弁会社を設立し、間接的に全国朝日放送(テレビ朝日)に資本参加すると発表した」。
「(両氏は)9月末までに折半出資で合弁会社を設立。テレビ朝日の発行済み株式の21.4%を保有する旺文社の100%出資子会社の『旺文社メディア』の全株式を買収する。買収金額は約417億円。放送局への外資参入は約20%までに規制されているが、News Corp.の合弁会社への出資は50%なので、問題はないという」
「メディアに黒船がやって来た」
発表と同時に放送業界だけでなく、政界も巻き込んでの騒ぎになりました。テレビ朝日の大株主であり、社長まで送り込んでいる朝日新聞への風あたりが一挙に強まりました。「放送を外国資本に握られていいのか」「言論が外国に操られるようになったら日本は終わりだ」そうした非難が続々と寄せられました。総務省からは「自民党が怒り狂っている。早く買い戻した方が無難だ」という警告まで受けました。1990年代中ごろは日本では「インターネット元年」といっていい時代でした。のちになって孫さんが述懐しています。「メディアにも黒船が来たのか、乗っ取られるぞ、という反発は半端でなかった」と。
しかし、外資規制について両氏は記者発表の通り合弁会社で対応しました。
ソフトバンクとNews Corp.は折半出資の会社を設立し、その合弁会社がテレビ朝日株21.4%を保有することにしました。折半出資なので2人のテレ朝株は10.7%ずつになる、というわけです。
11月7日、テレ朝は臨時株主総会を開き、両氏が送り込んでくる取締役2名を受け入れる予定でした。しかし開催直前になって問題が起きました。取締役候補の1人が「日本人某」となっていて、固有名詞が挙げられていなかったのです。朝日新聞は「日本人某では受けられない」と総会を延期したのです。
「買収が成立していたら何が変わったか」
この延期でテレ朝株買収は白紙になったといってもいいでしょう。もし総会が開かれていたら、日本のテレビ界は大きく変わっていたに違いありません。「どう変わったのか」。私は買い戻し交渉を担当していましたのでよく質問されましたし、「買収が成功していたら」という論文も見かけました。翌1997年の3月2日、ホテルオークラで株式の買い戻しが行われました。価格は彼らが買った価格と全く同じ417億円。
この騒ぎで大事な点は、放送法の20%ルールとは関係なく、「反孫・マードック」「反黒船」の包囲網ができてしまったことです。
株の買い戻し・売り戻し契約に調印する時、孫さんの渋い顔を忘れられません。ネットとテレビの融合、相互乗り入れへの挑戦をあきらめきれなかったのでしょう。マードック氏は正反対にサバサバした表情でした。「この国はアカン。手を出したのは失敗だった」といわんばかりでした。
マードック氏は出身のオーストラリアから英国、米国に進出し、新聞を買収してきました。米国では映画会社「20世紀フォックス」を買収し、ニュース専門チャンネルのFOXニュースを立ち上げ、自分の国籍も米国に変えてしまいました。メディアといえども合従連衡は当たり前、というのが彼にとっての常識なのでしょう。その常識が通じなかったのです。
この騒ぎに続くように、2005年にライブドア(堀江貴文社長)がフジテレビを、楽天(三木谷浩史社長)がTBS株を、という二件の株式買収を巡る動きがテレビ界を揺さぶりました。テレビ局は外資規制で安心していたのに、「国内の黒船」に意表を突かれたのです。