メディアの鎖国はいつ解ける(下)
塾長  君和田 正夫
放送法に決められた外資規制を守っていてもテレビ経営に参画することは難しい。そのことを、孫・マードック連合は証明したわけです。では外国投資家でなければ自由に経営参加できるか、というと、そうはいかないよ、と世間に知らしめたのが2005年に起きたフジ、TBS両社の株式買収騒動でした。
ライブドアの堀江貴文氏はニッポン放送が持っているフジの株35%を買いましたが、フジグループの激しい抵抗にあって最終的に経営参加はできませんでした。ライブドアは1996年、東京大学に在学していた堀江氏ら大学生によって設立された若いウェブサイトの制作会社でした。
楽天とTBSのケースでは楽天が経営統合を申し入れたところからスタートしましたが、こちらもうまくいきませんでした。楽天はこの直後の1997年に楽天市場を開設しました。
ライブドアも楽天も相手企業の同意を得ずに株の買収を行う「敵対的買収」でした。敵対的買収は仕掛けた側が企業イメージを悪くしたり、批判を浴びたりします。とりわけ若い企業、無名の企業にはハードルの高い買収手段でした。
「20%越え」の大手テレビ局というのはフジ・メディア・ホールディングス(以下フジHD)と日本テレビホールディングス(以下日テレHD)です。新たにフジHDの違反が問題になったわけです。
株券などの有価証券を保管し受け渡しを行う証券保管振替機構の「外国人保有制限銘柄」によると2021年3月19日時点でフジHDは31.66%、日テレHDは23.65%が外国人の直接保有率になります。TBSホールディングス(TBSHD)は14.39%、テレビ朝日ホールディングス(テレ朝HD)は11.98%で、いずれも規制の範囲内です。
「株主名簿の記載等の拒否 」という規定です。外国人投資家の持ち株比率が20%を超えてしまうとき、超える部分について株主名簿に記載することを拒否できる、という規定です。名義の書き換えを拒否することで、議決権を20%未満に抑え込む仕組みです。
フジ、日テレは書き換えを拒否したのだろうと思っていたら、フジの違反は2012年9月末から14年3月末まで、20%を超えていたことが、当時の内部調査で分かったけれど、公表しなかった、というものです。
ここで問題は二つ浮上します。まず東北新社です。なぜ書き換えを拒否しなかったのでしょう。接待などしないですんだ問題です。
東北新社の中島信也社長は3月15日の参院予算委員会で、外資規制の違反に気づいて「2017年8月9日ごろ、総務省の鈴木(信也)課長(当時の情報流通行政局総務課長、現・電波部長)に相談した」と答弁しています。では、なぜ相談しに行ったのでしょう。
書き換え拒否ができない何か問題が発生したのでしょうか。あるいは拒否では解決できない別の問題が発生したのでしょうか。うっかり忘れてしまい、名義書き換えの基準日に拒否できなかった、というミスも考えられます。20%越えに気付かず、記載拒否を使わなかった可能性がある、と朝日新聞は報じています(3月27日)。
しかし、総務省の狼狽ぶり、処分の迅速さ、政治家たちの逃げ一手の対応ぶりは異様です。何があったのでしょう。
東北新社のチャンネルは5月1日に有料チャンネルの認定取り消しが決まっています。ではフジHDに対して総務省はどう対応するのでしょう。「過去の問題であり、現在は違法状態にない」「当時厳重注意した」ですむのでしょうか。
50%を越える株主になれば、普通決議を単独で可決できるなどの権限が生じ、株を持たれた側は子会社ということになります。普通決議は役員報酬や剰余金の配当などの決議です。
それに対して、20%には特別の権限はありません。連結決算の対象になったり関連会社(子会社ではなく)と見られたりすることがあるので、関連会社扱いはゴメンだということがあるかもしれません。
責任を問われるのはいつも官僚。政治家は言葉で誤魔化すだけ。その親玉である菅首相は、息子を利害関係のある会社に勤めさせていること自体が問題なのに、東北新社創業者の植村伴次郎氏から2012年から18年までに全額で500万円受け取ったことを認めました。
この国の常識はいつからかおかしくなっています。
孫・マードック連合が経営に参加していたら、日本のテレビはどう変わったか。ずっと考えてきました。テレビも新聞も圧倒的スピードでマルチメディアの道を進んだでしょう。
テレビの生みの親ともいうべき新聞社は、「社説」の主張は別にして明らかに「反黒船」側でした。テレ朝株の買い戻しを実現するのが私の仕事だと思っていましたが、買い戻さない方が良かった、と今は思っています。新聞社から自立するためプロパー社長を誕生させましたが、そんなことでは追いつきません。
テレビも新聞も今や高齢者御用達の衰退メディアです。異業種や外国企業が加わって何が起きるかわからないルツボに身を委ね、情報革命の一翼を担う機会を狙うべきでした。時すでに遅し、かもしれません。
ライブドアの堀江貴文氏はニッポン放送が持っているフジの株35%を買いましたが、フジグループの激しい抵抗にあって最終的に経営参加はできませんでした。ライブドアは1996年、東京大学に在学していた堀江氏ら大学生によって設立された若いウェブサイトの制作会社でした。
楽天とTBSのケースでは楽天が経営統合を申し入れたところからスタートしましたが、こちらもうまくいきませんでした。楽天はこの直後の1997年に楽天市場を開設しました。
ライブドアも楽天も相手企業の同意を得ずに株の買収を行う「敵対的買収」でした。敵対的買収は仕掛けた側が企業イメージを悪くしたり、批判を浴びたりします。とりわけ若い企業、無名の企業にはハードルの高い買収手段でした。
フジは外資規制違反を内密に
実は20%の外資規制を楽々超えている大手テレビ局があることがしばしば話題になります。それなのに東北新社が問題にされるのはなぜか、という指摘がすでになされています。「20%越え」の大手テレビ局というのはフジ・メディア・ホールディングス(以下フジHD)と日本テレビホールディングス(以下日テレHD)です。新たにフジHDの違反が問題になったわけです。
株券などの有価証券を保管し受け渡しを行う証券保管振替機構の「外国人保有制限銘柄」によると2021年3月19日時点でフジHDは31.66%、日テレHDは23.65%が外国人の直接保有率になります。TBSホールディングス(TBSHD)は14.39%、テレビ朝日ホールディングス(テレ朝HD)は11.98%で、いずれも規制の範囲内です。
東北新社はなぜ接待したか
20%を超えてもお咎めなし、というのはどういうわけでしょう。放送法には次のような決まりがあります。「株主名簿の記載等の拒否 」という規定です。外国人投資家の持ち株比率が20%を超えてしまうとき、超える部分について株主名簿に記載することを拒否できる、という規定です。名義の書き換えを拒否することで、議決権を20%未満に抑え込む仕組みです。
フジ、日テレは書き換えを拒否したのだろうと思っていたら、フジの違反は2012年9月末から14年3月末まで、20%を超えていたことが、当時の内部調査で分かったけれど、公表しなかった、というものです。
ここで問題は二つ浮上します。まず東北新社です。なぜ書き換えを拒否しなかったのでしょう。接待などしないですんだ問題です。
東北新社の中島信也社長は3月15日の参院予算委員会で、外資規制の違反に気づいて「2017年8月9日ごろ、総務省の鈴木(信也)課長(当時の情報流通行政局総務課長、現・電波部長)に相談した」と答弁しています。では、なぜ相談しに行ったのでしょう。
書き換え拒否ができない何か問題が発生したのでしょうか。あるいは拒否では解決できない別の問題が発生したのでしょうか。うっかり忘れてしまい、名義書き換えの基準日に拒否できなかった、というミスも考えられます。20%越えに気付かず、記載拒否を使わなかった可能性がある、と朝日新聞は報じています(3月27日)。
しかし、総務省の狼狽ぶり、処分の迅速さ、政治家たちの逃げ一手の対応ぶりは異様です。何があったのでしょう。
東北新社のチャンネルは5月1日に有料チャンネルの認定取り消しが決まっています。ではフジHDに対して総務省はどう対応するのでしょう。「過去の問題であり、現在は違法状態にない」「当時厳重注意した」ですむのでしょうか。
「関連会社扱い」は不名誉?
外資規制に関係なく一般論として20%には、さほどの意味がありません。33.4%、つまり三分の一を越えれば、株主総会の特別決議を単独で否決する権限を持ちます。特別決議というのは定款の変更や監査役の解任などです。50%を越える株主になれば、普通決議を単独で可決できるなどの権限が生じ、株を持たれた側は子会社ということになります。普通決議は役員報酬や剰余金の配当などの決議です。
それに対して、20%には特別の権限はありません。連結決算の対象になったり関連会社(子会社ではなく)と見られたりすることがあるので、関連会社扱いはゴメンだということがあるかもしれません。
自己改革の機会失うメディア
東北新社による総務省幹部への接待で、国家公務員倫理規程に違反していたとして、幹部たちは退職したり減給などの処分を受けたりしました。東北新社も認定取り消しです。これに対して武田総務相はNTT社長らと会食し、行政の公平性について問われましたが、ペナルティーはありません。責任を問われるのはいつも官僚。政治家は言葉で誤魔化すだけ。その親玉である菅首相は、息子を利害関係のある会社に勤めさせていること自体が問題なのに、東北新社創業者の植村伴次郎氏から2012年から18年までに全額で500万円受け取ったことを認めました。
この国の常識はいつからかおかしくなっています。
◇
孫・マードック連合が経営に参加していたら、日本のテレビはどう変わったか。ずっと考えてきました。テレビも新聞も圧倒的スピードでマルチメディアの道を進んだでしょう。
テレビの生みの親ともいうべき新聞社は、「社説」の主張は別にして明らかに「反黒船」側でした。テレ朝株の買い戻しを実現するのが私の仕事だと思っていましたが、買い戻さない方が良かった、と今は思っています。新聞社から自立するためプロパー社長を誕生させましたが、そんなことでは追いつきません。
テレビも新聞も今や高齢者御用達の衰退メディアです。異業種や外国企業が加わって何が起きるかわからないルツボに身を委ね、情報革命の一翼を担う機会を狙うべきでした。時すでに遅し、かもしれません。