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スローガンは毒饅頭?(上)

塾長  君和田 正夫

 毎週土曜日の正午から放送される「関口宏のもう一度!近現代史」(BS-TBS)を楽しみに見ています。先日の番組で関口さんと組んで解説・説明役を担っている保阪正康さんが、亡くなった半藤一利さん(1930年5月21日~ 2021年1月12日)の教訓を紹介していました。近現代史の研究者であり、ジャーナリストであり、小説家でもあり、という多彩な顔を持っている半藤さんは日ごろから「四文字七音が流行る時代は要注意」と言っていたそうです。今年1月に90歳で亡くなりました。

  「四文字七音の時代は要注意」

 その「四文字七音」を紹介させていただきます。さらにあと二つ、私が追加した「語群」も併せてお読みください。
 まず半藤さんの「四文字七音の昭和史」(「こころ」最終号)です。
 「『幕末史』をまとめているとき、思わずウムと唸って、呆気にとられたことを覚えています」と半藤さんは書き始めます。尊王攘夷派も開国派も佐幕派も一様に「皇国」「皇国」と大合唱で叫んでいる、吉田松陰も、そして一番冷めていたはずの勝海舟までも『皇国の瓦解』と脅し文句のように使う。「勝っつあん、お前さんもか」と、それはもうがっかりしたそうです。
 この「皇国」意識を土台にして幕末から明治にかけて奇妙なほど四文字熟語が生み出された、と指摘しています。
 「万機公論」「廃藩置県」「廃仏毀釈」「四民平等」「国民皆兵」「脱亜入欧」「富国強兵」「殖産興業」…。
 四文字熟語は中国古代からの用法ではあるけれど、日本では「七音」が加わって情緒に訴えかけ、国民を魅了する「魔術」を秘めていた。満州事変で、日本のマスコミが「正当防御」と書いて民衆を煽り立て、結果として世論は「暴支膺懲(ぼうしようちょう)」で燃え上がった。これが太平洋戦争の第一歩になった、と半藤さんは分析しています。「暴支膺懲」とは「横暴な中国を懲らしめよ」という意味です。
 第二次大戦では日本の海外侵略を正当化する「八紘一宇(はっこういちう)」が戦時下、日本で最大最高の国是になった、と言います。この言葉は世界を一つの家族のようにまとめることを意味します。
 戦後もたくさんの「四文字七音」がつくりだされました。「平和憲法」「男女同権」「高度成長」「所得倍増」「複合汚染」「赤字国債」…。
 戦前から引き続き四文字に魅了されてきた、ということでしょう。「それも昭和史」と半藤さんは結論付けます。

  カタカナ英語で「知らしむべからず」?

 次は「第二群」の言葉たちです。ただし四文字ではなくてカタカナ英語です。コロナとの関係で飛び交っています。以下の言葉を読んでください。4月25日から東京、大阪などで緊急事態宣言が発令、という事態なのに、国民に危機を正しく理解してもらおう、という為政者の意気込みが全く感じられません。四文字と違って意味不明の外来語でゴマ化して乗り切ろうとしているように思えます。

 ステイホーム(家に居よう、外出自粛)、クラスター(感染者集団)、ロックダウン(都市封鎖)、パンデミック(感染爆発)、go to 〇〇(移動を促す経済政策)、エッセンシャルワーカー(社会生活維持のために必要な従業員)、ソーシャルディスタンス(社会的距離)、ソーシャルファーム(社会的企業)、ワーク・ライフバランス(仕事と家庭の調和)、エビデンス(証拠、根拠)…。
 まだまだたくさんあります。「レガシー」「モメンタム」「ホイッスル・ブロワー」「パラダイムシフト」「スプリングボード」「マイクロツーリズム」「東京アラート」「トリアージ」「オーバーシュート」「ブラックアウト」「ワイズ・スペンディング」「メルクマール」「アウフヘーベン」…。

 これらの言葉の中には日本語に置き換えると、恐ろしくなる言葉がたくさんあります。感染爆発、都市封鎖、感染者集団、全域停電、内部告発者など。英語になると、なぜかソフトな印象になります。
 コロナに限らず、日常でも外国語があふれています。「ESG」「CSR」「SDGs」となると、説明せよ、理解しろ、という方が無理なのでしょうが、為政者も外国語で表現したがる。つられて私たちも知ったかぶりで、ついカタカナを使う。それが危険への第一歩かもしれません。

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