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オンライン化できないメディア

塾長  君和田 正夫

 ジャック・アタリ氏が書いた「メディアの未来」(林昌宏訳・プレジデント社)は500ページを超える大著です。フランスの経済学者であり思想家であり、フランス政府に影響力を持つ人物として知られています。
 同書は50万年前、貝殻に刻まれた模様による伝達手段から説き起こし、記者数が減少している現代のメディアを描き、そして未来のメディアの姿を予想しています。
 2021年から2100年のメディアについて「紙の新聞がかなり先まで約束されている民主国は稀だ」とし、その稀の例に日本が挙げられています。
 「日本はなぜ稀なのだろう」と聞いてみたくなります。アタリ氏が指摘するように、紙の新聞は雪崩を打ったようにオンライン化を急いでいます。紙版とオンライン版の混合メディアの成功例として「ニューヨークタイムズ」を挙げています。日本も雪崩組の例に漏れないのですが、「ニューヨークタイムズ」を真似できない日本特有の理由があります。それが「稀」の理由かもしれません。
 その一つは何と言っても言語です。オンライン版の購読者500万人という「ニューヨークタイムズ」は英語の新聞です。文部科学省の統計によると母語として英語を使っている人は世界で4億人です。人数では中国に次いで2位ですが、第二言語として英語を話している人を含めると15億人に上るとも言われています。英語は商業用語、技術用語などの分野で国際言語の地位を確保しているからでしょう。それに対して日本はどうかというと、母語は人口と同じ1億人余です。ということはオンライン版といえども国内だけで勝負しなければならないのです。
 言語の問題に加えて、コンテンツ(内容)の問題があります。米国の一挙手一投足を世界が注目しています。対中国の関係一つを見ても、外交、軍事、経済、国内政治、どれもニュースです。日本が対外発信できるニュースは何でしょう。良くも悪くも日本の経済成長が注目された時代がありましたが、20年間の沈滞を経て発信する材料はほとんど失われました。
 ドイツのメルケル首相の引退は世界のニュースになりましたが、菅首相の引退は話題性に乏しいニュースの扱いでした。
 日本の新聞は混合型を目指しても紙を捨てきれないのです。
 アタリ氏は「ジャーナリズムの価値を見直す」というページで「すべての教育機関でジャーナリズムを教える必要がある」と説いています。さらに「ジャーナリストとメディアを保護する」というページでは「世界的に適用可能なジャーナリズム憲章の制定が急務」と訴えています。フランスはジャーナリズムを大事にする国として知られています。「国境なき記者団」はフランス人記者によって設立され、現在も仏政府が資金援助しているはずです。フランスはサルコジ大統領の時代に6年間で6億ユーロ(780億円)の活字メディア支援策を発表しました。さらに20%の付加価値税も新聞や雑誌は2.1%の軽減税率が適用されました。
 ですが、「ジャーナリストとメディアの保護」は難しい問題をはらんでいます。非民主主義の大国、中国、ロシアが「ジャーナリストとメディアの保護」に賛成することはあり得ません。小さな国には反対派がたくさんいます。例えばベラルーシは27年間にわたって国を率いるルカシェンコ大統領がメディアへの統制を強め、欧米からは「ヨーロッパ最後の独裁者」と批判されています。
 日本もメディアを保護することに反対するかもしれません。保護する必要性を感じなくなっているからです。敵性メディアと味方のメディアの区分けはすでに済んでおり、敵性メディアを保護するなんてとんでもない、と思っているからです。
 海外のメディア観と日本国内のメディア観に大きな隔たりがあることを認識させられます。一読してみてください。

(2021.10.01)

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