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世襲、国民、メディア

塾長  君和田 正夫

 また世襲の批判です。この欄で何度も取り上げてきた世襲政治。最近はメディアも話題にすることが減り、逆に持ち上げる空気さえ感じられます。それならば、総選挙の結果がどうであれ、世襲政治家だけ集めて貴族院でも作ればいいのに、とヘソ曲がりのカーブはますます激しく曲がっていきます。もう少しこだわってみたいのです。
 政治を先の先まで展望してみましょう。視力の落ちた高齢者には明るい光が一向に見えてきません。「次の首相は誰がいい」という世論調査をすると、いつも上位は世襲の河野太郎さん、小泉進次郎さん、石破茂さん。世襲なのに上位に顔を出せなかった岸田文雄さんも今や立派な首相です。最近では、林芳正さん、福田達夫さんといった世襲エリートの名も加わってきました。林氏は高祖父、祖父、父に次ぐ4代目。福田氏は祖父、父とも総理大臣です。「党風一新の会」の代表世話人にもなりました。

 これだけ世襲議員が控えたら、あと半世紀は首相選びに困りません。世襲の再生産、再々生産も間違いなく続くでしょうから、われら日本国民は今世紀中は安心していいよ、と告げられたようなものです。
 林さんの名前が出たついでに、林さんが立候補した山口県を見てみましょう。4つある選挙区の自民党候補者はすべて世襲です。1区は高村正大、2区は岸信夫、3区は林、4区が安倍晋三の各氏です。廃藩置県のあった1871年より昔に戻った気分です。

 世襲候補の8割が当選

 10月17日の日本経済新聞は朝刊の1面トップで「チャートは語る feat.衆院選」という特集記事が、珍しく世襲候補を取り上げていました。世襲議員が選挙では圧倒的に有利であるという「常識」をデータで裏付けた記事でした。
 小選挙区比例代表制が導入された1996年以降の衆院選の全選挙区、全候補者についてデータベースを作成して分析したところ、候補者全体の13%が世襲で、勝率は比例代表による復活当選を含めて、なんと80%だった、というのです。記事の見出しは「衆院選 勝利の壁『3バン』 世襲候補は8割当選」「新人の勝率14%」。
 「3バン」は言うまでもなく「地盤・看板・カバン」です。世襲候補の定義は①父母が国会議員、②3親等内の国会議員から地盤の一部または全部を引き継いだ場合、としています。結論は「日本の『選挙市場』には新規参入を阻む様々な壁がある」という冷静なものでした。

 世襲族には「3バン」に支えられた奇手もあります。公示直前に引退・世襲を発表することです。ほかの人に立候補の時間的余裕を与えない方法です。前回2017年の衆院選は10月10日公示、22日投開票でした。山口1区で当時の高村正彦議員(自民)は9月25日に引退を表明し、息子の正大氏を後継に指名しました。鹿児島の保岡興治議員(故人=自民党)の場合はさらに露骨で、同じ衆院選の公示2日前に不出馬宣言をし、息子が立候補しました。「電撃的な世襲」(西日本新聞)に批判が集まり、息子さんは落選しました。

 「親が閣僚なら勉強になる」

 朝日新聞は25日に「世襲議員 なぜこんなに多い?」という記事(夕刊社会面)を出しました。同紙によると、前回総選挙では自民党当選者の3割に当たる83人が世襲だったそうですが、にもかかわらず、世襲について大学教授の意見として「批判は必ずしも当たらない。特に親族が主要閣僚経験者の場合には政策決定の場を勉強したり、人とのつながりができたりするケースがある」と、驚くような解説を引き出しています。
 プラトンが唱えたという「高貴なウソ」を連想します。
 国家を統治するためのウソは許される。神は統治する能力のある者(王)には生まれるときに金を混ぜ与えた。王を助ける補助者たち(兵士)には銀を、農夫やその他の職人たちには鉄と銅を混ぜ与えた。そして「鉄や銅の人間が一国の守護者となるときはその国は亡びる」。
 プラトンはそう言って脅したのです。
 金の血が流れているものは勉強の機会を得て国のリーダーになる。なるほど。100メートル競走のスタートラインを揃えよ、という議論とは全く別の話なのですね。

 「大政奉還」した菅前首相

 少し前に「小泉進次郎と福田達夫」という対談本を読んだことがあります。朝日新聞の解説が正しいとすると、首相経験者を親に持つ二人ですから、優れた政治観をお持ちのはずです。その二人に聞いてみたかったことは、世襲を改革する必要は有りや否や、という点です。楽チンな現状をヨシとしているのでしょうか。残念ながら著者(司会者?)の田崎史郎氏は突っ込んで聞いてくれませんでした。世襲の苦労話を読まされると「そうでしょうね」と一応、うなずきはしますが、8割が当選するのですから、そのくらい我慢しなさいよ、と言いたくなります。
 菅前総理は世襲嫌いのたたき上げ政治家、ということで一時期、期待を集めましたが、大甘でした。安部元首相のリモコン政治から抜け出すことができませんでした。「ポスト菅」では河野太郎さんの支持に回りました。たたき上げでは首相は務まらない、と菅さんは大政奉還の役を自ら演じてしまったのです。

(2021.10.30)

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