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尺八が宇宙に響く日

塾長  君和田 正夫

 もし、地球以外の生命体と巡り合ったら…そう考えるとゾクゾクしますね。
 今から半世紀近く前の1977年8月20日、アメリカ航空宇宙局(NASA)は太陽系惑星探査衛星「ボイジャーII」を打ち上げました。打ち上げから2年経った1979年7月9日に木星に最接近し、データを地球に送り届けました。さらに2年後の1981年には土星に、4年半後の1986年には天王星に、そして打ち上げから10年以上が過ぎた1989年には海王星に最接近しました。
 現在、ボイジャーⅡ号機は、続けて打ち上げられたⅠ号機(1977年9月5日)とともに地球から百億キロメートル離れた太陽系外縁空間から太陽系外空間を巡行し、ついに太陽と別れ、星間空間とよばれる世界へ分け入ったようです。
 そこで、他の星の「人たち」がボイジャーと巡り合ったら、地球に生命や文化が存在することを知ってほしくなりますよね。
 そう、当然、それに備えた地球人の知恵の産物が積み込まれています。「ゴールデンレコード」と呼ばれるレコードです。打ち上げの時に話題になったようですが、半世紀たつと忘れてしまいますので、おさらいしてみましょう。
 「ゴールデンレコード」には地球上の55の言語(日本語も含まれます)など音や画像が収められています。「地球の音」のセクションでは波や風の音などに続いて、世界の音楽が収録されています。ベートーヴェンの「運命」などのクラシックやアンデスの代表的歌「コンドルは飛んでいく」、米国のルイ・アームストロング「メランコリー・ブルース」などです。
 日本の音楽は何だったでしょうか。尺八の「巣鶴鈴慕」(そうかくれいぼ)が選ばれました。演奏したのは59歳の若さで重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された山口五郎氏です。残念ながら山口氏は1999年に亡くなりました。葬儀の時もこの曲が流れたそうです。
 「巣鶴鈴慕」は子が育ち巣立って別れるまでの親鶴の喜びや悲しみを表わしています。「仮名手本忠臣蔵」で虚無僧姿の加古川本蔵が吹くので有名です。
 大宇宙に尺八の音色が鳴り響く、想像しただけで愉快になりますね。しかし残念なことには、ボイジャー1号が太陽以外の恒星近くに到達するにはなんと4万年もかかるのです。

 宇宙には夢がある一方で熾烈な戦いが繰り広げられています。
 ロシアが自国の古い衛星を破壊する実験に成功したと、11月16日に発表しました。その発表より先に米国が実験を伝え、1500個の宇宙ゴミ(デブリ)が発生した、とロシアを非難しました。宇宙での軍事競争、技術競争が騒々しくなっています。
 当然、中国も競争の主役の一人です。10月16日、有人宇宙船「神舟13号」が打ち上げられた、と中国中央テレビが報じました。
 日本はどうなのでしょう。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が13年ぶりに宇宙飛行士を募集することが発表されました。将来の有人月探査を念頭に置いている、といいます。昨年、2020年12月6日には「はやぶさ2」が小惑星リュウグウ(Ryugu)で採取したサンプルを、カプセルを使って地球へ届けられるという楽しいニュースもありました。
 夢ばかりではありません。2020年には、「宇宙作戦隊」が防衛大臣直轄部隊として作られました。「令和二年度予算の概要」という防衛相の資料によりますと、宇宙関連経費は506億円です。

 宇宙に鳴り響く尺八は残念ながら何万年も先にならないと聞けないでしょう。それまで人類は生き残っているでしょうか。宇宙戦争の響きはすぐ聞こえてきそうな、悪い予感がします。人類は自滅の道を自ら選ぶのかもしれません。
(山口五郎氏の「巣鶴鈴慕」はYouTubeで聴くことができます)

(2021.11.30)

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