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80歳、酸欠日記⑥

塾長  君和田 正夫

 街頭ピアノ、音楽番組の楽しさ

 BSの強みが出るのは音楽かもしれない。海外、国内で「駅ピアノ」とか「空港ピアノ」とか「街角ピアノ」とかいって、街中にピアノを置いて自由に弾かせるNHKの番組が人気だ。旅行に来た人、街に遊びに来た人、デート中の2人、帰宅途中の人、老若男女みんなが楽しんでいる。彼らが共通して言うことは、言葉で表すことができない感情をピアノは表現できる、ということだ。
 ダブリンの駅ピアノでは日本の「花は咲く」を若者が弾いた。日本に行きたいという。続いて那覇のピアノ。「ピアノがないと半人前」という言葉を私はベッドの上で聞く。
 歌番組はたくさんある。NHKの「新・BS日本のうた」、日テレの「こころの歌」、テレ朝の「子供たちに残したい美しい日本のうた」、TBSは「昭和歌謡ベストテン」…。数え上げるときりがない。
 カウンターテナーの藤木大地をBSで初めて知った。いい声だった。しかし最初は「カウンターテナー」という言葉さえ「それなんじゃ」だった。
 歌番組への注文は演歌ファンには申し訳ないが、圧倒的に多い演歌系を減らしてほしいということだ。ニューミュージックとかフォーク系が少ない。

 胃腸薬とイ長調

 音楽番組は多様化している。BSだけが活躍の場ではない。NHKの「クラシックTV」はピアニストの清塚信也と歌手・モデルの鈴木愛理が登場する教育専門チャンネルだ。「ロック・ポップスから民族音楽に至るまで幅広い音楽の魅力を『クラシック音楽の視点』でひも解く」と謳っている。
 このチャンネルではないが、6月18日に放送された「KinKi Kidsのブンブブーン」(フジテレビ系)で清塚のパーフォーマンスが話題のようだ。ショパンの「プレリュード 第7番 イ長調」を弾きながら、「これね、みんな胃腸薬のCM曲だと思ってる! これね、ショパンの大事な『プレリュード』っていう曲!」と言って笑わせる。
 さらにダメを押す。「大変な思いをして作ってるのに、胃腸薬の曲だと思われてて、すごく都合の悪いことにイ長調なんです」。
 「イ長調」と「胃腸薬」。アハハ。番組が太田胃散に問い合わせたところ、47年も前の話なので、当時を知る人がいなかったそうだ。
 清塚のこうした当意即妙の会話とピアノは飽きることがない。
 「関口宏の一番新しい古代史」は「もう一度!近現代史」に続くBSのシリーズだ。「近現代史」を仲間に推薦したら、あっという間に視聴仲間が広がった。

 BSは地上波を補って十分

 BSは地上波を補って余りある。地味だが挑戦的な報道番組をベッドの上から見ることができた。その例を2つ。ただし我慢を求めてくる番組でもある。
BS-TBSの「報道1930」。月曜から金曜までの19時半から20時45分まで。司会はTBSで特派員を経験した後、フリーになった松原耕二氏。TBSのサンデーモーニングにもコメンテーターとして登場する。
 もう1つ、BSフジの「プライムニュース」。月曜日から金曜日まで20時から2時間にわたるニュース番組。司会はやはり特派員などを経験した反町理氏。反町氏の司会は以前に評判になったことがあるらしい。
 同じ時間帯での競い合い。これもいいことだ。2人とも真面目でニコリともしない。芸能人が参加しない、というだけで番組の雰囲気がまるで違う。取材経験を生かした働き盛りの2人が大人の番組を作ろうとしているように見えるし、テレビ局が2人にまともな番組を作ってくれと頼んでいるようにも見える。それならば、もっと見せる工夫をしろ、真面目な番組だから見ろと迫るな。
 2つの番組が投げかける問題は明快だ。テレビはどこまで「偏ることができるか」だ。TBSはリベラル系、フジは保守系といった印象はすでに定着している。それが「偏り」になってしまうと放送法が認めない、ということだろう。
 2011年にBS11の「“自”論対論 参議院発」という番組が問題になったことがある。放送倫理・番組向上機構(BPO)で「政治的公平性」が問われた、激しく偏った番組だった。当時、野党だった自民党がワンクール(1月から3月まで)30分を、自民党の議員だけが出演する番組を作ったのだ。司会は山本太一議員(政調会長代理・参議院政審会長=肩書などは当時)と丸川珠代議員の2人。丸川氏は元テレビ朝日アナウンサーなので格好の役割だった。11回にわたり自党の議員だけ24人、述べ43人を出演することになった。
 BPOの結論は想定通りだった。「一党一派に偏して公平性を損なっており、放送倫理に違反する」であり、「自民党に一定の時間を丸投げした」と指摘された。
 私が疑問に思ったのは、公平性が求められる時間帯だ。まず放映中の30分間は静かに公平にしていろ、ということだろう。では時間や日にちをまたがる場合はどうなる。放送期間の3カ月の比較ではだめなのか、という点だ。「もし、他の党にも3カ月間、11回の番組を認め、自由な意見、主張を展開させた場合、それは公平と言わないのか」。こうした真ともでない疑問にはまともな答えが返ってきた試しはないので、10年間も疑問のまま続いている。
 テレビと新聞が決定的に違うところが少なくとも一つある。臨場感だ。このテレビの武器は強力だ。出演中の政治家や評論家を怒らせ、刺激し番組に波乱を起こさせる。公平性などのきれいごとの世界をかなぐり捨てさせ、本音ベースの意見を引っぱりだすことができる現場だ。時折見るシーンだ。
 2人が真面目なのは分かっている。出演者を挑発しても誰も失礼だとは思うまい。2人には申し訳ないが、つまらなかったらチャンネルを代えるだけだ。

 病院では午前6時に看護師さんが回ってきて検診が始まる。検診が済めばテレビを見る。おかげでテレビを見る時間が長くなった。しばらく離れていたプロ野球の選手名と顔が一致し始めた。
(2022.07.11)

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