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人生の分岐点 大学院への進学 5/10

  松尾 英里子 / 白鳥 美子

 明治大学工学部では工業化学を専攻、卒業後は大手製薬会社に就職し、中央研究所の研究員として働き始めた。
 「これって、米櫃を背負っているようなものです」
 一流企業の研究職というポジションを手にしたからには、よほどのことがない限り、生活は一生保障される。「安定」を手に入れて、「一生食っていける」ということだ。
 だが、学部卒と院卒の研究員では、与えられる研究テーマが随分違うことに気づき、もっと基礎的な研究がしたいという願いもあって、大学院で学びを深めたいという思いが募っていった。
 「だから、米櫃を投げ打つことにしました」
 就職してから2年が過ぎようとしている3月、北野さんは会社を辞めて東京都立大学の大学院に行くことを決めた。院に進んだからと言って、学位が取れるかどうかは分からない。その先、就職できるかどうかも分からない。そんな中での無謀ともいえる決意だった。
 「北野の家は、みんな、あんまり先を計算しないところがある。武(弟の北野武さん)も世間を騒がせる事件を起こしたりしたけど、先行きを考えていたらあんなことやらないはずです」
 父親も母親も、大(まさる)さんの決断を後押ししてくれた。
 「北野家から博士を出したかった」と、母はとても喜んだという。
 それでも、会社を辞めてから大学院の講義が始まるまでの数週間は、やることもなく、行く場所もなく、「本当に、米櫃を投げ打ってしまったなあ」と不安を感じることもあったという。
  その頃を振り返り、「やっぱり、虎穴に入らずんば虎子を得ずなんですよね」と北野さん。怖くて進めないでいるうちは、欲しいものは手に入らない。
 「やってみての失敗と、やらないでの失敗。どうせ失敗するなら、やって失敗した方があきらめがつくんじゃないかな」





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