経済ウォッチング
小泉環境相、原発を本音で語ろう
ジャーナリスト / 元上智大学教員 小此木 潔
2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする方針を明らかにした菅義偉首相は、国会の所信表明演説で「脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。メディアもほとんどが歓迎しているようだが、この新政策の正体は、脱炭素にかこつけて原発の再稼働や新増設を進めるものではないかと考えざるを得ない。
首相自身、所信表明で「再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します」と明言している。さらに、演説した10月26日にNHKのニュースウォッチ9に出演し、「再生可能エネルギーだけでは温室ガス削減はうまくいかないと思いますが、原発の新設とか増設をどう考えますか」との忖度めいた質問に「安全優先をしてですね、従来通りの方針で進めていきたい、こういうふうに思っています」と答えた。
筆者はこのくだりを聞いて驚いた。小泉氏は昨年9月の環境相就任時の会見で、原発について「どうやったら残せるかではなく、どうやったらなくせるかを考えたい」と述べていた。それなのに、ここで原発推進の経産相と同調して新政策に取り組むというのでは、結局のところ温暖化対策の陰に隠れて原発を推進しようとする動きに小泉氏が加担する構図になるのではないか、と思ったのである。
⼩泉氏の本音は一体どこにあるのだろう。
就任会⾒の発言は、2030年度に再⽣可能エネルギーを電源構成で22-24%にするとの目標を掲げた政府のエネルギー基本計画に関し、再生可能エネルギーの⽐率をもっと拡⼤すべきだとの文脈であったようだ。
2019年の電源構成では再生可能エネルギー18.6%、原子力6.6%だが、政府は原⼦⼒発電を「重要なベースロード(基幹)電源」と位置づけ、30年度に20-22%とするとしている。原発比率の増加はそう簡単ではないから、小泉氏は再生可能エネルギーを増やしていけば、いずれ脱原発も展望できると踏んでいるのかもしれない。
政府が考える2030年度電源構成のベストミックス=資源エネルギー庁HPから
父親の小泉純一郎元首相のように正面から脱原発の考えを説くのは勇気がいるだろうし、考え方は親子で違うとしても仕方ない。しかし、再生可能エネルギーと原発の二本柱で脱炭素を推進する手法に賛成なのかどうか、国民に説明する責任がある。温暖化対策に関して「クール」で「セクシー」であるべきだなどと述べたことがある小泉氏なればこそ、政策について大胆に思うところを語ってほしい。
また、再生可能エネルギーの比率を増やそうとすれば原発依存をなくせると考えているなら、それは甘い。いくら「脱炭素」を掲げても、他方で政府が原発推進の旗を振るのでは、再生可能エネルギー分野の大規模な投資と技術革新を引き出すのは難しい。だからこそ政治的決断とリーダーシップの役割が大きいことに小泉氏は気づいてほしい。
日本の原発は今後、老朽化が進んで危険が増してゆく。それなのに政府は原発の比率を増やそうとしている。「脱炭素」を「脱原発」で実現させようとしているドイツに比べて、なんとも情けない風景ではないか。テレビメディアなどから将来の首相候補などともてはやされることもある小泉環境相が、この風景に溶け込んでしまうように見えるのは、残念でならない。
小泉会見でこの問題を質して記事にする記者はいないのだろうか。それとも、質問する人はいても、まともな返事が返ってこないとか、メディア各社の判断でそういう記事など不要だということにでもなっているのだろうか。記者クラブ制度の弊害なのか、メディアの委縮のせいなのか、不思議でならない。
「脱炭素は脱原発でこそ」「そろそろドイツに学んでみよう」といった見出しの社説でも解説でもインタビューでもいいから、読んでみたい。
首相自身、所信表明で「再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します」と明言している。さらに、演説した10月26日にNHKのニュースウォッチ9に出演し、「再生可能エネルギーだけでは温室ガス削減はうまくいかないと思いますが、原発の新設とか増設をどう考えますか」との忖度めいた質問に「安全優先をしてですね、従来通りの方針で進めていきたい、こういうふうに思っています」と答えた。
原発推進の経産相と組むのですか
このインタビューで首相は、梶山弘志経産相と小泉進次郎環境相の息が合っているので、二人をこの新政策がらみで留任させたという趣旨の発言もした。筆者はこのくだりを聞いて驚いた。小泉氏は昨年9月の環境相就任時の会見で、原発について「どうやったら残せるかではなく、どうやったらなくせるかを考えたい」と述べていた。それなのに、ここで原発推進の経産相と同調して新政策に取り組むというのでは、結局のところ温暖化対策の陰に隠れて原発を推進しようとする動きに小泉氏が加担する構図になるのではないか、と思ったのである。
⼩泉氏の本音は一体どこにあるのだろう。
就任会⾒の発言は、2030年度に再⽣可能エネルギーを電源構成で22-24%にするとの目標を掲げた政府のエネルギー基本計画に関し、再生可能エネルギーの⽐率をもっと拡⼤すべきだとの文脈であったようだ。
2019年の電源構成では再生可能エネルギー18.6%、原子力6.6%だが、政府は原⼦⼒発電を「重要なベースロード(基幹)電源」と位置づけ、30年度に20-22%とするとしている。原発比率の増加はそう簡単ではないから、小泉氏は再生可能エネルギーを増やしていけば、いずれ脱原発も展望できると踏んでいるのかもしれない。
政府が考える2030年度電源構成のベストミックス=資源エネルギー庁HPから
以前の力強い発言を
しかし、仮にそうだとしても⼩泉⽒は今この段階では、原発を「どうやったらなくせるか」について自身の考えを改めてきちんと述べる場面ではないだろうか。就任会見では「⼀つの国で2度(原発)事故を起こしたら終わり。いつ地震が来るか分からない。どうやったら経済や雇⽤に悪影響を与えることなく、再⽣エネルギーを社会の中に実装して、事故の恐怖におびえることなく⽣活できる⽇本の未来を描けるかを考え続けてみたい」とも述べていたのに、今はそうした力強い発言は聞かれなくなってしまった。父親の小泉純一郎元首相のように正面から脱原発の考えを説くのは勇気がいるだろうし、考え方は親子で違うとしても仕方ない。しかし、再生可能エネルギーと原発の二本柱で脱炭素を推進する手法に賛成なのかどうか、国民に説明する責任がある。温暖化対策に関して「クール」で「セクシー」であるべきだなどと述べたことがある小泉氏なればこそ、政策について大胆に思うところを語ってほしい。
また、再生可能エネルギーの比率を増やそうとすれば原発依存をなくせると考えているなら、それは甘い。いくら「脱炭素」を掲げても、他方で政府が原発推進の旗を振るのでは、再生可能エネルギー分野の大規模な投資と技術革新を引き出すのは難しい。だからこそ政治的決断とリーダーシップの役割が大きいことに小泉氏は気づいてほしい。
手本はドイツのメルケル首相です
手本になるのは、ドイツのメルケル首相だ。原発を2022年末に廃止するという方針を掲げ、脱原発の道を着々と歩んでいる。太陽光や風力発電などの拡大に力を入れ、これまでに全電源に占める再生可能エネルギーの比率を約40%に増やした。2030年までに65%にし、2050年には80%程度にできる見込みだという。日本の原発は今後、老朽化が進んで危険が増してゆく。それなのに政府は原発の比率を増やそうとしている。「脱炭素」を「脱原発」で実現させようとしているドイツに比べて、なんとも情けない風景ではないか。テレビメディアなどから将来の首相候補などともてはやされることもある小泉環境相が、この風景に溶け込んでしまうように見えるのは、残念でならない。
メディア、萎縮せず警鐘を
それにしても、こうした状況について新聞やテレビがほとんど警鐘を鳴らしたり疑問を呈したりすることなく、菅政権の脱炭素宣言を額面通りに評価する傾向が強いように見えるのも、納得がいかない。小泉会見でこの問題を質して記事にする記者はいないのだろうか。それとも、質問する人はいても、まともな返事が返ってこないとか、メディア各社の判断でそういう記事など不要だということにでもなっているのだろうか。記者クラブ制度の弊害なのか、メディアの委縮のせいなのか、不思議でならない。
「脱炭素は脱原発でこそ」「そろそろドイツに学んでみよう」といった見出しの社説でも解説でもインタビューでもいいから、読んでみたい。