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英王室は生き延びるか?
ヘンリー王子夫妻の衝撃インタビュー

在英ジャーナリスト  小林 恭子

 「生きていけないと思うほどの孤独感に悩まされた」。
 「口を封じられた」。
 「生まれてくる子供の肌の色が黒くなるかどうかと聞かれた」。
 先月上旬、エリザベス女王の孫にあたるヘンリー王子と結婚したメーガン妃がテレビのインタビュー番組の中でこう語った。米国生まれのメーガン妃は父が白人、母が黒人である。
 夫妻は2018年に結婚し、翌年、メーガン妃は長男アーチー君を出産。昨年春、二人は高位王族としての公務を縮小させると宣言し、事実上公務を引退した。現在は一家で米国に住んでいる。
 米テレビドラマ「スーツ」などで女優として活躍したメーガン妃は、「王子様と結婚」した。まるでおとぎ話のような展開である。しかし、その実態はどうだったのか?


ヘンリー王子との結婚式直前、笑顔を見せるメーガンさん
(2018年5月19日付、サン紙、紙面撮影筆者)

  ヘンリー王子夫妻に米国は同情的

 米国の超人気司会者オプラ・ウィンフリーさんを前に、メーガン妃と夫のヘンリー王子が語った中身は、王室批判のオンパレードであった。
 米国での反応は、メーガン妃に同情的な声が圧倒的だった。米大統領補佐官はメーガン妃が心の問題について話したことを「勇気ある行動」と称賛した。元国務長官のヒラリー・クリントン氏は「番組を見ているのがつらかった」と語っている(米ワシントン・ポスト紙、8日付)。英王室の一員として「受け入れてもらうのは、いかに難しかったことでしょう」。
 米国で特に注目されたのは、王族の誰かが人種差別的発言をしたという主張だった。人種問題が米国にとって最も熱い社会問題の1つであることは、昨年来の反人種差別運動「ブラック・ライブズ・マター」の全米での広がりからも明らかだ。

  英国は高齢者ほど否定的

 一方、ヘンリー王子の母国・英国では特に高齢者の間で批判的な受け止め方をする人が多かった。
 世論調査会社「ユーガブ」の最新の調査(3月10日、11日実施)によると、エリザベス女王への好感度は80%で、番組放送前後で変化なし。
 しかし、ヘンリー王子に好感を持つ人は45%。ネガティブな見方を持つ人は48%。以前から2つの見方に分かれていたが、ネガティブな見方を持つ人の割合が、番組放送後は若干上回った。メーガン妃の場合は好感を持つ人は31%、ネガティブな見方を持つ人が58%。2人とも、ネガティブな見方を持つ人が増えていた。
 また、高齢者ほど、夫妻に対してネガティブな見方をするのに対し、若者層の間では支持率が高い傾向があった。
 なぜ英国市民、特に高齢者の間で反感が強いのかというと、エリザベス女王への敬意と愛着が非常に強いお国柄であることや、王室内の内情を暴露しないことが不文律となっているからだ。
 立憲君主制の国・英国では、国民全員が君主の「臣民」だ。政府も「女王陛下の政府」である。君主は政治に干渉しないことになっている。
 これを徹底するため、1952年に即位したエリザベス女王は一切、メディア取材には応じないし、自分の政治姿勢や個人的思いを公にしない。
 英国に住む人の中でも伝統を重んじる保守層や高齢者は、ヘンリー王子夫妻のインタビュー番組出演自体が禁欲的とさえ言える女王の姿勢とは全く逆で、不文律を破った「裏切者」に見えてしまうのである。

  孤独に苦しんだダイアナ妃の暴露

 王室のメンバーでありながら「内情暴露」を公の形で行ったのは、ヘンリー王子夫妻が初めてではない。
 最も著名な例が王子の母ダイアナ妃(1997年、パリで交通事故死)の場合である。
 自分が情報源となった本『ダイアナの真実』(1992年)で、王室の中の孤立、自傷行為、夫のチャールズ皇太子に愛人(現在の妻カミラ夫人)がいたことなどを暴露した(出版当時は自分が情報源であることを隠していた)。1994年、チャールズ皇太子が民放番組で愛人の存在を認め、翌年、今度はダイアナ妃がBBCの番組「パノラマ」で孤独感、自傷、愛人の存在をインタビュー形式で語った。
 もともと、チャールズ皇太子はダイアナ妃との結婚(1981年)前からカミラさんと恋愛関係にあったが、カミラさんは1995年までアンドリュー・パーカーボウルズ氏と結婚していた。エリザベス女王は皇太子がカミラさんと関係を続けていることを知りながら、ダイアナ妃との結婚を後押ししていた。結婚当初からダイアナ妃はカミラさんの存在に悩まされた。王室のそれまでの常識からいえば、「夫に愛人がいても我慢する」はずだった。
 1996年、ダイアナ妃は皇太子と離婚する。自然な感情の発露を隠さず、人を引き付ける強いアピール力を持ったダイアナ妃は保守層から「異端」と目され、個人的な感情を公にしないエリザベス女王とは対極の存在となった。国民の間に絶大な人気を保ちながらも、ダイアナ妃は離婚を経て、王室からは「はじかれた」格好となった。

  「黙々と公務に励む」を良しとする伝統

 歴史を振り返ると、1936年、エリザベス女王の叔父にあたるエドワード8世は、離婚歴がある米国人女性ウォリス・シンプソンさんと結婚するために、王位を放棄した。当時、離婚歴のある女性と国王の結婚は社会的に許されなかった。
 エリザベス女王の4歳下の妹マーガレット王女(2002年死去)は、10代半ばでピーター・タウンゼント侍従武官に恋をした。しかし、タウンゼント氏は既婚で王女もまだ幼かった。
 その後数年間で二人は愛し合うようになり、1952年、同氏の離婚後、二人は結婚を望んだ。しかし、政府も王室もこれに大反対。タウンゼント氏はマーガレット王女よりも16歳近く年上で、離婚歴があり、「ふさわしくない」と判断された。王女は王位継承権や年金受給権のはく奪の可能性を示され、苦しい立場に追い込まれた。教会も結婚を認めないことが伝えられ、二人は泣く泣く結婚をあきらめた。
 メーガン妃は離婚歴があるが、ヘンリー王子と結婚できた。その点では時代は変わっている。しかし、黙々と公務に励むことが「良し」とされる伝統は健在だ。


2018年5月の結婚式直前のウインザー城付近のお土産店
(筆者撮影)

  エリザベス女王の支持率の高さ

 今回のような暴露発言の後、英国の王室はこれからも続いていくのだろうか?
 英リベラル系新聞「ガーディアン」のコラムニスト、ジョナサン・フリードランドは「英国は共和制になるべき」と考える一人だ。
 しかし、それでも、「王室制度は続く」という(ガーディアン紙のコラム、3月12日付)。それは、エドワード8世の退位を含め、女王が筆頭となるウィンザー家は様々な危機を乗り越えてきたからだ。また、エリザベス女王への支持率の高さも理由だという。
 在英の筆者は社会の中に格差を作る王室制度を個人的には支持しない。ただし、エリザベス女王の献身的な統治には敬意を持つ。
 女王は、世襲制という王室制度の中で、「私」を出さない生き方を徹底してきた。
 しかし、例えば一人の人間として強い孤独感を持ち、人種差別的発言をされたと感じたときに、いかにつらかったのか、どんな思いがしたのかを誰にも言わず、感情に蓋をして生き続けるべきなのだろうか。果たしてそれで幸せなのか。
 王族として生まれても、自分の感情を広く知ってもらい、共感してもらうことで社会とつながり、個人としても救済される道を選ぶことは許されないのだろうか。
 メーガン妃や夫のヘンリー王子は後者を選んだのである。

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